私はNGOに新卒就職し、NGO業界で転職をしました。
一方、そもそもNGOとは何なのかが曖昧でした。また日本のNGOは欧米のNGOに比べて規模が小さいと言われますが、資金をめぐる状況はどうなっているのか疑問に思い、調べてみることにしました。
本記事では主に国際協力に従事するNGOを対象として話を進めたいと思います。
NGOの定義
NGO(Non-Governmental Organization)の語源は1946年の国連の経済社会理事会で民間の非営利団体をNGOと呼んだことに始まります。
国際協力NGOセンター(JANIC)のNGOの定義は下記の通りです。
貧困、飢餓、環境など、世界的な問題に対して、政府や国際機関とは違う " 民間 " の立場から、国境や民族、宗教の壁を越え、利益を目的とせずにこれらの問題に取り組む団体
誤解を恐れずにNGOの特徴を挙げると、
- 政府から概ね独立している
- 利益を主要な活動目的としない
- 民間(市民)の立場に立つ
という点があります。
一方で、実際にNGOについては世界的に合意された定義がないようです。
「民間」や「市民」をどう定義するかによってNGOのスコープは異なってきます。
「政府」、「企業」、「市民社会」と3つの主体を明確に分けて市民社会的な活動を行う団体をNGOとして理解することもできるかもしれませんが、この3つのアクターの定義自体も重なっている部分があります。
実際NGOの中にも、設立の過程やその構成員、資金源などによって政府や企業に近い組織もあるでしょう。
定義の話は大事ですが、こだわりすぎると先に議論が進まないので、このブログでは、「政府から概ね独立していて」、「営利を主要な目的とせず」、「市民の立場に立つ」要素を持つ組織をNGOとし、その中で国際協力に携わる組織を国際協力NGOとして話を進めたいと思います。
市民社会の定義については下記をご覧ください。
日本の国際協力NGOの法人格
日本ではNGOと称する組織が様々な法人格を持って活動しています。個人的にはこの法人格の違いがNGOの定義を理解しづらくしているように感じます。
外務省とJANICが公開しているNGOデータブック2016では、2015年12月時点でJANICの公式サイトNGOダイレクトリーに登録されている約430の国際協力を行う非営利の市民組織に法人格の有無・種別を調査しています。
NGOデータブック2016の図表によると、多くの団体の法人格は特定非営利活動法人(NPO法人)で、他にも財団法人や社団法人のような法人格があることが分かります。なしと回答した37団体は法人格を持たない任意団体です。
(公益信託とは個人や法人が資産を信託会社に預けて、信託会社がその資産を利用し公益活動を運営すること。専門の事務所や職員をおく必要がない。)
ここで少しその法人格の違いをまとめてみたいと思います。
内閣府NPOページによると特定非営利活動法人(NPO法人)は特定非営利活動促進法に基づき法人格を取得し、団体の構成員に収益を分配することを目的とせず、様々な社会貢献活動を行う団体のことを指します。
この法律は1998年に施行されその後制度改正が進んでいますが、NPO法人は比較的新しい法人格です。
私たちサルタックも特定非営利活動法人の法人格を取得しています。
この特定非営利活動法人が一定の基準を満たすものとして所轄庁の「認定」を受けた法人は「認定」特定非営利活動法人(認定NPO法人)となります。
認定特定非営利活動法人は税制上の優遇措置を受けることができ、制度的には寄付を集めやすくなります。
社団法人・財団法人は前者が特定の目的のために組織された団体、財団法人は個人や企業の資産を運用するための団体という違いがあります。
社団法人・財団法人の歴史は古く、明治29年の民法で公益性があり、非営利の活動を行う組織は行政の許可を得ることで法人化できました。
一方で公益性を行政に認められないと法人格を得られないなどの手続きの煩雑さがあったことなどから2008年の行政改革で、公益性の認定の違いにより、一般社団法人・一般社団法人と、公益社団法人・公益財団法人という2段階に分かれました。
一般社団法人・一般財団法人は公益性の認定はなく、団体の構成員に収益を分配することを目的としなければ、登記だけで簡単に法人が設立できます。(*一般財団法人は300万円以上の財産拠出が必要)
この一般財団法人・一般財団法人が役所の公益認定(実質的には市民を代表する第三者機関)を受けることで、「公益」社団法人・「公益」財団法人となります。
「公益」認定を受けた社団法人・財団法人は「認定」特定非営利活動法人と同様に寄付金の税制控除を受けられます。さらに公益社団法人・公益財団法人は団体の収益事業も非課税になるなどの優遇措置を受けることができます。
特定非営利活動法人と公益法人制度の比較についての詳細は内閣府のページが分かりやすいです。
現状では上記のそれぞれの法人格を持つ団体や法人格を持たず活動している任意団体がNGOを自認し活動しています。
国際協力NGOの資金規模
次に国際協力NGOの資金状況を見ていきたいと思います。
先述のNGOデータブック2016の調査対象の国際協力NGOの年間収入額の平均値は1億3700万円強と思った以上に平均収入額が大きいです。
一方で年間収入額の中央値は約2000万円です。
この中央値は、調査対象の312団体の収入規模を一番小さい団体から一番大きい団体まで横一列に並べ、ちょうど全体の中央に位置する値が約2000万円であるということを意味します。
莫大な収入がある団体が一定数存在するため、平均値が中央値よりも大きくなっていますが、実際の多くの団体の収入規模は中央値の実態に近いと考えられます。
NGOデータブックの図表によると、年間収入合計額の金額帯別に団体を分けると収入合計額が一億円以上を超える団体が53団体存在する一方で、1000万円未満の団体が103団体、1000万円~2000万円未満の団体が58団体です。
NGOデータブックはさらにこう続けます。
年間収入合計額が「1億円以上」の団体数は 53 で全体の17.0%であるが 、年間収入額 の合計 は、調査対象の NGO全体(312 団体) の年間収入額86.6%を占めている 。
反対に「 1,000万円未満」の団体数は 103 で全体の 33.0 %を占めるが、年間収入額の合計は全体の 0.94%にすぎない。
以上のデータより、日本の国際協力NGOの収入規模は典型的な二極化構造が存在していると言えるでしょう。
次に国際協力NGOの収入の内訳の経年変化を見てみたいと思います。
調査手法が年度により異なり、単純な比較はできないようですが、国際協力NGOにとって寄付金収入が活動の大きな原資となっていることが読み取れます。また近年は助成金収入の割合が増加している一方で会費収入の割合は近年減少傾向です。
寄付市場
次に寄付市場を見ていきます。
これは国際協力NGOに限った寄付額ではありませんが、国際協力NGOを含めた非営利組織への大まかな寄付の状況を理解できるでしょう。
日本ファンドレイジング協会の寄付白書2017のデータによると、2016年の日本の個人寄付額は7,756億円。2015年の法人寄付額は7,909億円でした。
2009年からの比較可能なデータしか存在しませんが、徐々に寄付市場は大きくなっていると推測されます。
一方で、個人寄付市場の規模は米国・英国に比べてまだまだ小さいです。
2016年の米国の個人寄付総額は30兆6000億円を超え名目GDP比では1.44%、イギリスも1兆5,035億円で名目GDP比は0.54%。日本は名目GDP比の寄付総額は0.14%です。
アメリカは寄付先の多くが教会などの宗教関係に流れていて、寄付先を吟味する必要はありますが、寄付市場の規模が日本よりははるかに大きいと言えるでしょう。
この要因に対して山田は宗教文化の弱さ、非営利セクターの浅い歴史、認知度・信頼度の低さに加え、認定特定非営利活動法人認可要件の厳しさのような制度的な制約などをあげています。また非営利組織のファンドレイジング機能の弱さも指摘しています。
アメリカでは歴史的に中央政府の力が弱く、個人・コミュニティ発の非営利活動が活発になる文化的な素地があり、それを支える寄付金優遇税制が整備されてきました。
日本にも自治会組織のような地域レベルの非営利組織は存在していたものの、より規模の大きい社会サービスの提供は政府が担ってきていたため、非営利組織の発達が遅れたとも考えられます。
制度的制約に関しては、近年認定要件が緩和され、認定数は増加傾向です。
助成金の状況
NGOの収入規模に占める助成金の割合が大きくなっているように、現在様々な団体が国際協力NGOへの助成金を提供しています。
外務省の発行しているレポートによると、外務省のNGO支援のスキームNGO連携無償資金協力の実績額は増加傾向であることがわかります。政府・経済界の支援を受けた緊急人道支援のスキームジャパン・プラットホームも災害や難民支援の必要性によって年度によって差はありますが、実績額は年々大きくなっています。
両者を合わせた実施件数も増加傾向です。
JICAの国際協力NGOなどを対象とした草の根技術協力事業も近年の支出総額は横ばいではありますが、過去に比べると支出額・案件数は増えています。
まとめ・今後の国際協力NGOの展望
NGOの定義から話を始め、国際協力NGOをめぐる資金的な状況を概観してきました。寄付金額は増加傾向で、寄付控除を受ける要件の緩和や、助成金の種類・規模の増加により、国際協力NGOの資金をめぐる状況には追い風が吹いていると考えられます。
一方で、巨大な国際協力NGOが存在し、多くの寄付金や助成金を集める一方で、多くの団体は零細NGOで資金獲得に苦慮しています。
助成金は大きな資金を一度に獲得できる一方で、助成団体の動向に左右されることから、自由度の高い活動を実施するためには自主財源(寄付・会員・収益事業)の獲得が必要になります。
まずはファンドレイジング能力強化や組織運営のプロの登用などNGO側の努力が必要でしょう。認定非営利活動法人や公益法人となることで、寄付金控除の要件を満たしていく必要もあります。
一方で人々の寄付やNGOへの意識の変革も必要です。
ボランティア精神は必要ですが、NGOは善意に満ちたボランティアだけではインパクトが残せる活動を実施するのは難しく、事業を運営するためにはどうしても専門人材・有給職員が必要になってきます。
寄付が直接受益者に繋がることを求めたくなることは理解できますが、それを回す人やモノがないと活動が立ち行かなくなるということも知ってもらう必要があります。
国際協力NGOの実態を広く知ってもらうためにも、NGO側の情報発信も強化していく必要があります。
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