サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。

教育の質を改善することが、教育へのアクセスを改善するためにも重要である国の話

こんにちは、畠山です。メキシコシティでの学会が終わりミシガンに戻ってきました。うちの大学からは38人がこの学会に参加しましたが(ミシガン州立大学は、日本ではあまり知られていないマイナーな大学ですが、国際比較教育学では一大拠点で、このNGOの前身となった国際教育協力勉強会の立ち上げを立案した同級生も、ここで博士号を取得しています)、20度後半の温暖な所で1週間過ごした後に、雪が舞う所へ戻ってきたので、体調不良者続出で大変なことになっています、苦笑。

今回はメキシコシティで発表してきた内容の一部を少しご紹介したいと思います。私は去年の8月までユニセフ・マラウイで教育スペシャリストとして勤務していました。国によって多少の差はありますが、国連機関は5年サイクルのカントリープログラムの下で支援活動を展開しており、5年目になると次のカントリープログラム策定のために様々な分析が実施されます。ちょうど私がマラウイに赴任したのがカントリープログラムの4年目に当たったので、次のカントリープログラム策定のために、教育セクター分析を実施しました(むしろ、このために呼ばれたようなものですが)。ちなみにサルタックでも、ネパールでインターンをする方には、この教育セクター分析が出来るようになってもらうために、下記の教科書(私の名前もチラッと出てきますし、私の元指導教官や元上司が書いたものなので、ひょっとしたらもっと良い別のテキストがあるかもしれません)を参考にしてもらい、質問にお答えしています。

www.globalpartnership.org

www.globalpartnership.org

教育統計学基礎編

Tools for Education: Policy Analysis

途上国の教育省を支援する際に、どの教育段階をどれぐらい支援するのかなど戦略は多岐に渡るのですが、大きく分かれるポイントは教育へのアクセス改善のための支援を実施するのか、それとも教育の質改善のための支援を実施するのか、になります。なぜなら、教育支援の中には主にどちらか一方に効くものがいくつもあるからです。

例えば、アフリカ・中南米・インドなどでは女子向けの奨学金や現金給付などを好むのですが、これらはもちろん教育へのアクセス改善に大きく貢献しますが、これ自体が教育の質を改善するかというとやはりそこまでではありません(注: もちろん学校教育の質は改善しないのですが、貧困状況が緩和されることで学力が向上することはあります)。またこれとは逆に、教員へのトレーニングや図書館の設置は教育の質向上に大きく貢献するはずですが、教育へのアクセスを大きく向上させるわけではありません(注: もちろん、教育の質が低いので学校に行かせても無駄だ、という判断の下で不就学が発生している場合には効果が見込まれます)。

このように、教育へのアクセスを向上させるのか、教育の質を向上させるのか、戦略的な判断が求められます。教育へのアクセスか教育の質かという議論は、スタンフォード大学のHanushek教授のように経済成長や教育の収益率からの議論がよく為されています。今回の教育セクター分析では、これを教育財政から見てどうなのか?、という点をコーホート再構築法を基に、アクセスに特化した場合と質に特化した場合で10年間のプロジェクションを組んで分析しました。あと、初等教育修了率から見てどうなのか?、も単純なコーホート再構築法で分析しています。

 

コーホート再構築法については、下記の記事で解説しているのでぜひご覧になって頂きたいのですが、

sarthakshiksha.hatenablog.com

大雑把に説明すると下のスライドのようになります。

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ある年度(y)のある学年(g)の生徒数は、y-1年度のg-1年生の進級率と、y-1年度のg年生の留年率によって規定されます。具体的に言うと、2018年度の5年生の人数は、2017年度の4年生の人数と進級率、2017年度の5年生の人数と留年率によって決定されます。例えば、2017年度の4年生が100人いて進級率が80%だった場合、ここから2018年度の5年生になるのは80人ということになります。そして、2017年度に5年生が150人いて留年率が20%だった場合、2018年度にもう一度5年生をやる人数は30人になります。つまり、2018年度の5年生の人数は80人+30人で110人になる、というわけです。

今回組んだ10年間のプロジェクションでは、教育の質改善に特化して留年率を下げた場合と、教育へのアクセス改善に特化して退学率を下げた場合では、必要な教育予算がどのように違ってくるのかを見てみた、という訳です。

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まず、初等教育修了率への影響を見ましょう。上の画面がこのコーホート再構築法をエクセル上で組んだものになっています。これはマラウイの現状そのままですが、これを教育の質を改善させて留年率を半減させるとどうなるか見てみましょう。

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留年率を半減させてみると、15歳までに小学校を卒業できる子供の割合が10.7%から25.5%に跳ね上がりますし、17歳段階で見ても1.5倍以上に増えています。留年率が下がると、教育へのアクセスが良くなると言われると、日本にいる人には少し不思議な感じがするかもしれません。しかし、マラウイの子供達の多くは小学校の低学年のうちから何度も何度も留年し、10代後半になってもまだ小学校の中ほどにいて、働くためや子育てのために小学校を退学していくのが現状なので、留年率を改善して小学校をスムーズに卒業できるようにしてあげればより多くの子供が小学校を卒業できるようになるわけです。実際に、どれぐらいこの状況が酷いかというと、Demographic and Health Surveyという家計調査の結果に基づくと、貧しい地域の小学校の小学校一年生のクラスを訪問してみると、半数位の子供は10歳以上ということになります。小学校一年生の半分が既に10歳と言われると、留年率を下げればより多くの子供が小学校を卒業できるようになる、というのが実感できるのではないでしょうか。

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今度は逆に、退学率を半減させてみます。もちろん、退学率が下がれば小学校を卒業する子供の割合が上がるのは当然ですが、興味深いのは留年率を半減させた場合との対比です。15歳までに小学校を卒業できる子供の割合に関して言えば、退学率を半減させるよりも、留年率を半減させる方が効果が高くなっています。これも直観的には分かりづらいかもしれませんが、小学校低学年で何度も何度も留年を繰り返している子供に奨学金を与えて、退学せずに小学校に留まれるようにしたところで、ただ留年を繰り返す期間が延びるばかりで、特に何も身につかず、やがて働いたり子育てをするために退学していくだけだ、と言われると少しこの現象が実感できるのではないでしょうか。確かに、17歳までに小学校を卒業できる子供の割合に関して言えば退学率にフォーカスした支援をした方が効果はあるようですが、17歳で小学校を卒業したとしても、中学校を卒業するころには既に20代に突入しており、このような子供達が中学校を卒業できるかと言われるとかなり難しい所があると思います。この点を考慮すれば、やはりいかに早く子供たちに小学校を卒業させてあげられるかが重要であり、15歳までの小学校卒業割合で分がある留年率を下げるための支援が優先されるべきではないのかなと私は思います。

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上の図は、もっと詳細に留年率と退学率を10%、20%…100%と下げていった場合に、15歳までと17歳までに小学校を卒業できる子供の割合がどう変化していくかを表しています。青線(留年率減少パターン)と赤線(退学率現象パターン)はそれぞれ、15歳までに小学校を卒業できる子供の割合を示しています。やはり、留年率を下げれば下げるほど、15歳までに小学校を卒業できる子供の割合は増加し、その効果は退学率を下げるよりも大きなものになっています。特に、留年を0に出来た場合、たとえ現在と同じ退学率であったとしても40%ぐらいの子供は15歳までに小学校を卒業できます。この子たちが順調に中学校も卒業できたとすれば、アフリカの貧困国の中でも有数の中卒の人材を持つ国になれるので、将来に明るい兆しが見えてくるでしょう。

 

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次に10年間のプロジェクションで教育予算がどうなるかを見ましょう。上の画面は今後10年間何も変わらなかった場合の状況を示しています。マラウイは世界でも有数の人口率の高さを誇るので、何も状況が変わらなくても、子供達の人数が増える分だけより多くの教員を雇ったり、より多くの教室を建てたりする必要があります。M19とM20がそれを示していて、向こう10年間で教員の数を15974人増やす必要がありますし、教室も新たに9821クラス建てる必要があります。ちなみにですが、安全な教室を一つ作るのに大体35000ドルかかるので、向こう10年間で約3億4400万ドル、一年辺り3440万ドル必要になります。2016年度に学校建築や修繕に充てられた金額が1500万ドルなので、留年率も退学率も減らせないと、予算不足から教室当たりの生徒数が激増、ないしは現在でもマラウイの子供の1/3は青空教室で勉強していますが、さらに多くの子供が青空教室で学ぶことになります。さすがにこれは避けなければなりません。

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では、10年間かけて退学率を0%に出来た場合どうなるでしょうか?上の画面が示すように、新たに必要になる教室の数が約3倍に増えました。これは子供が留年を繰り返してなかなか卒業しないため、延べ人数で見た時の小学生の数が激増するためです。何もしなかったときのシナリオもかなり厳しいものがありましたが、ここまで来ると国際機関や二国間援助機関がガンガンお金をつぎ込んでもマネージできる範疇を超えてしまっています。

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今度は逆に、退学率はそのままで、10年間かけて留年率を0%にした場合はどうなるでしょうか?上の画面が示すように、新たに必要になる教室の数が5765と、何もしない場合のシナリオと比べて半分近くになっており、現在のマラウイ政府の建築予算でもギリギリマネージできる範疇に入っていますし、援助機関が頑張れば学校修繕もしつつ、教室建築も間に合わせることが出来るでしょう。

計算が複雑になるので詳細は省きますが、現在マラウイでは2部制の学校で学んでいる子供の割合が約4%しかいないため、教室の有効活用があまりできていません(2部制にすると、その分教員にさらに給与を支払う必要が出てくるのですが、これを捻出できないのがボトルネックになっています)。しかし、この割合を25%まで増やすことができたとすると、留年率0%シナリオの下では、2025年には新たに教室を建設したり、追加の教員を雇ったりする必要が無くなります。

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上の図は、もっと詳細に留年率と退学率の2026年までの減少幅のターゲットを10%、20%…100%とした場合に、どれぐらいの追加の教員と新たな教室が必要になるのかを示しています。青線と赤線が留年率を減少させていった時に必要になる教室と教員の数をそれぞれ示しているのですが、留年率を減少させればさせるほど、必要となる教室と教員の数が減って、教育予算的にも何とかなりそうになっていくのが分かります。その逆に、留年率を減らさずに退学率だけを減らした場合、必要となる教室と教員の数が増えて、教育財政的にかなり厳しい状況になることが分かります。もちろん、生徒の数が増えれば必要になるのは新たな教員や教室だけでなく、教科書や文房具、机や椅子などの学校家具など多岐に渡りますし、増えた学校の分だけ教育行政側の人員も強化する必要もあります。これを考えると、留年率を下げずに退学率だけを下げるような教育支援を実施すると、マラウイの教育システムが即破綻(現状で既に破綻しているのではないかという声も聞こえてきそうですが…。)することが読み取れます。

以上のような感じで、教育へのアクセス自体は比較的確保されているものの、教育の質の問題が深刻な国に対して、奨学金の供与などの教育へのアクセスに注目した教育支援を重視すると、小学校の修了率や教育財政的にとんでもないことになってしまいます。その逆に、教育の質改善に注目した教育支援を重視すると、逆説的に教育へのアクセスが高まるだけでなく、教育財政的にも持続可能な素晴らしいものとなります。このため、教育の質に着目したカントリープログラムを組んで、途上国政府を二人三脚で支えていくべきだという分析結果になります。

では、どのような支援をして教育の質を改善していくべきなのか?、それはこの分析枠組みの対象外となります。実際に教育の質をどうやって改善できるのか分からないのに、この分析に意味はあるのか?、と言いたくなる人もいると思いますが、教育支援は様々な分析手法を用いてその戦略を立てていくものなので、この分析手法では質かアクセスのどちらにフォーカスすべきなのかまでしか明らかにできません。そこから先は、RCTを用いて費用対効果分析をするといった別の分析手法が必要になります。

 

一つだけ強調しておくべきことがあるとすれば、教育政策の専門家は様々なデータソースを、様々な手法を用いて分析し、戦略を立てていくものなので、一つのデータソースを(例えば学力調査)、一つの手法(例えば学校間の比較)を用いて分析して、この教育政策で全て解決!、という論調の教育関係の記事を見かけたら、それは眉唾物だと思って頂きたいという点でしょうか。

 

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