ナマステ!
教育の質の状況にを危機感を覚え、サルタック・ネパールを設立して六年目になりました。ようやく、世界的に「学習の危機」が叫ばれるようになりました。
今回はこの学習の危機の中心課題である「教員」について主に「教員一人当たり生徒数」の視点からネパール事例を分析します。教員一人当たり生徒数が子どもの学習に与える影響については様々な研究があって賛否両論ありますが、生徒数が多ければ教員の負担増や教員中心授業になる傾向があるので教員のパフォーマンスを考える際に妥当な指標として取られています。
前回の記事でも書いているように分権化が促進され、ますます教育行政が複雑化しています。データ単位も75郡から増え753の市町村になったので大変ですが、教育庁出版のフラッシュ・データ(2017/18)を参考にして、今回は議論を進めたいと思います。
(1)前期初等教育、通称「ECDセンター」
2016年に教育法が改訂され、1年間 (四歳児)の前期初等教育が基礎教育に含まれるようになりました。2000年代から急激に増え始めたECDセンターは全国で約36,000校もあり、教育省が支援しているファシリテーター(2016年以降は「児童教員」)が3万人もいます。県によって平均にばらつきがみえますが、規定の一人あたり教員に最高25人の児童数を超えている県が3つもあることがわかります。
753の市・村のデータ分析している同レポートによれば約339の市・村でECDセンターが不足していることが指摘されています。児童人口を計算すると6,625クラスが必要であると指摘されています。
図1:前期初等教育における教員一人当たり児童数
また、この児童数の半数(約50万人)が学齢児童以下・以上の児童であり、四歳児を対象とするECDセンターでの発達に見合った学習をファシリテーターが進めることができているのか疑問です。
(2)基礎教育
万人のための教育目標(Education for All)に向けネパールは小学校(以前の5年制までの初等教育)を急激に拡大していきました。現在ネパールでは35,000校を超える小学校が存在します。これらの小学校では約12.5万人の正規教員枠があるものの、前期中等教育(小学校の次の段階)では教員不足です。実は、万人のための教育目標に向け小学校の教員数の増加に注力してきたことから、前期中等教育の教育が不足しており、前期中等教員として雇用されている教員が2.5万人しかいないことからわかります。
図2:基礎教育における教員一人当たり生徒数(政府認定教員数に基づく)
しかも政府からの教員雇用は十数年も止まっていました。このような状況を打開するために学校が自分で非正規教員を雇っているので教員一人あたりの児童数が以下のようになっています。
図3:基礎教育における教員一人当たり生徒数(実際に報告されている教員数に基づく)
(3)中等教育
中等学校の場合は9400校しか(うちおよそ三割、3186校が私立)ありませんし、認可されている教員枠も2.5万人(うち、主に2万人が9・10学年教員)ぐらいしかありません。
図4:中等教育における教員一人当たり生徒数(政府認定教員数に基づく)
基礎教育と同じ傾向で、学校コミュニティから非正規教員を雇用し教員一人当たり生徒数を抑えています。
図5:中等教育における教員一人当たり生徒数(実際に報告されている教員数に基づく)
一見この教員雇用がコミュニティによる自助努力のように見えますが、実は非正規教員を雇用するため他の予算を教員給与に充てることになり、教材不足に陥る。無償教育のはずなのに様々な名目で授業料が徴収されるなど様々な問題があります。また政府としてはこれらの非正規教員は一時的な雇用なので、研修を受けることも稀です。
最後に:
- 教員一人あたり児童・生徒数をみるのは実際に学校現場で何が起きているのか見る手助けとなります。しかし、一方で全国レベルのデータ平均しかないので問題が隠れてしまうことも言えます。ただ、県レベルでさえばらつきが見えるのはさらに細かいレベルでもばらつきがあることが予想され、教育行政が定めている基準が満たされていないことがわかります。
- 教員問題はかなり政治的でこの10数年の政治不安定もあって解決されていませんでした。学習危機が叫ばれる昨今では最優先で解決すべき問題です。
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