サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。(noteへブログを移行しました。新しい記事はnoteにアップされます→https://note.mu/sarthakshiksha)

絵本は子どもにとって本当にいいことばかり?ー絵本に潜むジェンダーステレオタイプ

はじめに

こんにちは。サルタックジャパンでインターンをしている加賀谷です。


夏休みということで図書館に行ったのですが、そこで目にしたのは絵本コーナーに集まるたくさんの親子連れの子どもの笑顔。さっと絵本の予約状況を見てみるとなんと25人待ち...!! みなさんも、子供の頃に読み聞かされたり、親として読み聞かせしたりというように、絵本には意外と長く触れてきたかと思います。そんな絵本って子どもの発達にとっていいことばかりなんでしょうか?

確かに絵本は読み書きの基盤となったり、他者の感情を理解する想像力を豊かにしたりするなど子どもの発達において大切な機能を持っています(中澤・中道・ 大澤・ 針谷2005)。また、ものの見方・考え方、社会的風俗、生活様式などを反映している絵本は子どもの人間観、文化・社会観を形成する大切な役割も果たします(坂西・大沢1989)。そのような教育的な側面を持つ絵本は世界中で推奨されていますが、その結果基本的に良いものとして扱われています。しかし、子どもの将来に大きな影響力を与えることを考えると良い面ばかりに注目するのではなく批評をしていくことも重要です。そこで今回は、ジェンダー研究の観点から絵本の中に潜むジェンダーステレオタイプに着目していきたいと思います。

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ジェンダーステレオタイプとは何か?

そもそもステレオタイプ(Stereotype) とは一体どのようなものなのでしょうか?

McGarty et al. (2002) はステレオタイプとは特有のタイプの人物に関する定型化された考えや、ある特定のグループを表すような典型的な行動イメージであると定義しています。またFiske(1998)は偏見・差別・ステレオタイプはそれぞれ関係してはいるものの、完全に同じものではないとしています。ステレオタイプは特に意識していなくても起こりうる、特定のグループに属する人々への期待や思い込みを指し、偏見はステレオタイプの中で偏った感情的な部分を差し、差別は偏見的反応に基づく行為であると主張しています。Katz and Braly (1935) によれば、人々がある集団に対して感情的に反応したり、その集団の特徴を否定的に評価し始めた時、人々の持つステレオタイプが偏見へと繋がると主張しています。

これら先行研究の意見に基づいて、絵本に潜むジェンダーステレオタイプを分析するために、私は以下のようにステレオタイプ、そしてジェンダーステレオタイプ を定義しました。

ステレオタイプとは、ある社会的カテゴリー(性別、年齢、人種等)に属する人々が持つとされる型にはまった物事の見方、思い込み、認識 などです。偏った否定的な感情、評価、見方を意味する言葉「偏見」とは違いステレオタイプは肯定・否定どちらも含み、無意識の中でも生み出される固定的な認識です。場合によっては、ステレオタイプを背景に人や物事を捉え、否定的に評価することにより偏見が生まれ、最終的には差別といった行動を引き起こす可能性があります。中でもジェンダー・ステレオタイプ(Genderstereotype)は、性別による特徴に関するステレオタイプのことで、具体的には、一方の性別によりあてはまると人々に信じられている心理的特性や行動特性のことを指します。例えば、「男性はリーダーシップがある」や「女性は従順であり、か弱い」等のジェンダー・ステレオタイプは女性差別などを引き起こす引き金になるものです。

 

時代が移り変わるに連れてある社会的カテゴリーに属する人びとが持つジェンダーステレオタイプは変わっていくことも明らかにされています(後藤・高岡2003)。これに伴い、現代の子どもに広く読まれている絵本に描写されるジェンダーステレオタイプ を調査する前に現在の日本のおけるジェンダーステレオタイプ をリスト化して見る必要があります。そこで、「ジェンダーステレオタイプ 」「男らしさ」「女らしさ」「男性性・女性性」などの検索ワードにヒットする2000年以降に公開されたジェンダーステレオタイプに関する日本語の研究を収集し、以下でリスト化しました。 

著者名

トピック・手法

ジェンダーステレオタイプ

高井 範子岡野 孝治  (2009

ジェンダー意識に関する検討(男性性・女性性を中心にして)

アンケート調査

: 優しい 上品 繊細 家庭的 かわいい 愛嬌 色気 美しい 控えめ 男を立てる 明るい あったたかい 思いやり 

:包容力 頼りがい たくましい 決断力 優しい 行動力 体力 リダーシップ  

瀬戸山 聡子 (2009

女性性に関する研究の動向と展望について

Lit review

:従順 やさしい 感情的 容貌の美しい かわいい 色気のある おしゃれな 洋服屋髪型に気を配る 可愛らしさを持っている

斎藤 千鶴 (2004) 

摂食障害傾向における個人的・社会文化的影響の検討

アンケート調査

日本特有のステレオタイプである美・外見の社会的影響が摂食障害につながっている 

谷口 秀子 (2003

絵本の中の女性像 

Content analysis

:従順 受け身 控えめ 美しい 

梅津 迪子 (2002

ジェンダーとスポーツ 

( アンケート調査)

:繊細な スポーツが苦手

後藤 涼子 廣 秀一 (2003

 大学生 る男性性・女性性認知と性的役割の 変化 

MHF −scale

:明るい 暖かい かわいい 優雅な 色気のある 愛嬌のある 繊細な 静かな おしゃれな 献身的な 従順な 

:冒険心に富んだ たくましい 大胆な 頼り甲斐がある 信念を持った 行動力がある 意志の強い 決断力がある

鳥居 千代香 (2004

 ジェンダーバイアスと男女共同参画の現状

Lit review

男は仕事 女は育児家事であるという価値観がいまだに根強く残っている 日本 女性の社会的進出レベルまだまだ遅れている

伊藤明美 (2006)

テキストに隠されたジェンダーバイアス 

内容分析

:家庭 家事 か弱い 従順 

:仕事 たくましい 主役

木村 吉彦 (2000

ジェンダーと日本の労働政策  

歴史調査 

:良妻賢母

:仕事 

大上 希  (2016)

「女子力」と「男らしさ・女らしさ

キーワード検索 

性格 

男: "積極的な"(「積極的な」「活発な」「大胆な」「行動力のある」など) および"意志が強い"(「意志強固な」「信念を持った」など)

女:女らしさにおけるかわいい”“やさしい” ((「やさしい・やさしさ」「思いやりある」「気持ちの細や かな」「従順な」など)

身体 

男:「た くましい」(体格の良さや筋肉があることなど,意識 して生活・行動することによって獲得される外見的な特徴)

女:「きれい・美しい」は「容貌の美しい」「清潔」

行動

男:「学歴のある」「経済力がある」,(「ひとりで独立して生きていける」や「社会 的に活躍する」

女:品がある” ”(「言葉遣いのていねいな」「上品」「お しとやか」など)と「おしゃれな」

このリスト上の文献で言及されていたジェンダーステレオタイプを、以下でカテゴリーごとにリスト化しました。

 

性格

「積極的な」「活発な」「大胆な」「行動力のある」 「勇敢な」および"意志が強い"「意志強固な」「信念を持った」など

性格

「やさしい・やさしさ」「思いやりある」「気持ちの細や かな」「従順な」「繊細な」「控えめな」

外見・美

「た くましい」(体格の良さや筋肉があることなど,意識 して生活・行動することによって獲得される外見的な特徴)

外見・美

「きれい・美しい」は「容貌の美しい」「清潔」「色気のある」「おしゃれな」

社会的価値

「経済力がある」(男は仕事)

「リーダーシップがある」「社会 的に活躍する」「頼り甲斐がある」 

社会的価値

「良妻賢母」「育児家事」「男を立てる」

「品がある」「言葉遣いのていねいな」「上品」「お しとやか」

日本におけるジェンダーステレオタイプの特徴として、ネガテイブな言葉が少ない点が挙げられますが、その分、差別や社会的問題などの背景にステレオタイプが潜んでいることに気づかない危険性があります。例えば、外見・美に関するステレオタイプの項目は日本特有のものであり、それが背景に女性の過度なダイエット志向、摂食障害が引き起こされていると主張する文献がありました。女性が外見や美に関するステレオタイプに悩まされている傾向にあるのが日本ですが、アメリカでは多くの男性がジムに通い、義務的に外見を磨く努力をしているところをみると男性の方がステレオタイプに悩まさているイメージがあります。国によって外見・美に関するステレオタイプとそれに基づく社会問題などを比較してみるのもおもしろいかもしれません。また、男は仕事、女は育児家事などといった差別的なステレオタイプに対して、日本では男女共同参画を促すなど表向きには改善される傾向はありますはいますが、価値観・文化の中にいまだ根強く残っていると述べる文献が多くありました。

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絵本の中のジェンダーステレオタイプ

絵本に描写されたジェンダーステレオタイプ に注目した先行研究は、全国5館の図書館から頻繁に借り出されている絵本435冊を選定し、それらの絵本に描写される男女の ステレオタイプ化された役割・行動を明らかにしています(坂西・ 大沢,1989)  。絵本の中の主なジェンダーステレオタイプとして以下のものが挙げられます。

  1. 主人公は明らかに女性よりも男性の方が多く、男子は積極的・活発に、女子は消極的・穏健に 描写されることが多い
  2. 男女の行動の特徴としては、男性は力強さまたは粗暴さを感じさせる行動が多く、反対に女性には穏やかさを感じさせる行動が多い
  3. 母親は主婦として家事育児に忙しく、父親はゆったりとくつろいでいるか職業人として働いている姿が多く描写されている

これらの結果を通して坂西・大和は男女平等な関係への歩みよりはまだまだ不十分であり追求していかなければならない重要な課題だと主張しています。

また、Anderson & Hamilton (2005)の研究では、アメリカにおいて有名な絵本200冊を選定し、男女が親として登場する頻度、そして「父親は不在の親」というステレオタイプが描写されているかどうかについて調査しています。結果として、男性が父親として登場する機会が女性(母親)と比べ、著しく少ないことが明らかにされています。絵本に描写される親としての男性の不可視性は、子どもの父親観に悪影響を与える上、アメリカ社会に存在する父親に関してのステレオタイプを助長すると著者は主張しています。
上記の先行研究で示されたようなジェンダーステレオタイプ は子どもの発達に悪影響を与えてしまう可能性があると言われています。Narahara (1998)は視覚的要素を多く含む絵本は子どもの社会的発達に多大な影響を与えると主張しています。その上で、ジェンダーステレオタイプ を多く描写した絵本は子どもの成長・発達を制限し、外的影響を受けやすい彼らのアイデンティティーや自尊心に否定的な影響を与えてしまうと強調しています。一方で、ステレオタイプ的な男女の役割・行動が描写されていない物語は子どもが将来、仕事に関するステレオタイプ的な態度、性差別的な考えを持たないことに寄与することが研究で証明されています(Perterson&Lach,1990)。

 

現代の日本で広く読まれている絵本はジェンダーステレオタイプに影響されているのか?

坂西・大沢の研究で選定された絵本は1980年代に広く子どもに読まれていたものですが、21世紀に入り、世界的また日本国内でも男女平等な社会が叫ばれる中で実際、現代の子どもに広く読まれている絵本はどの程度ジェンダーステレオタイプを描写しているのでしょうか?

絵本の選定方法として、年間1000万人が利用する日本最大級の絵本・児童書情報サイト絵本ナビスタイルで紹介された2017年児童書売上ランキングBEST30を利用しました。

理由は、年間1000万人利用と規模が大きく、2017年最新のランキングとあって、現在の子どもの間で広く普及している児童書、すなわち最も影響力が高い絵本を抽出できる可能性が高いからです。また、リスト上の本の年齢対象は4、5歳からのもの、小学生低学年から、高学年からのものなど幅が広い上、ロングセラーと新刊が入り混じっていてバランスのとれたランキングとなっています。

しかし、ランキングリスト上の上位順から絵本を選ぶとなると男性だけが登場するもの、女性だけが登場するものなどがあり、結果に偏りが出てしまう可能性があります。そこで男性登場者のみの絵本、女性登場者のみの絵本、男性・女性どちらも登場する絵本の3カテゴリーに分けて、カテゴリーごとの上位1位、計3冊の絵本を選びました。

選定した三冊の本

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なぞなぞが大好きな女の子が主人公のお話。友達を探しに森に出た時、狼に出会ってしまう。女性の登場者のみの絵本。 

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主人公の男の子エルマーエレベーターが動物島に渡り、捕らえられていた龍を助けるお話。男性の登場者のみの絵本。

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小学生である哲也を中心に家族をテーマに描いたお話。母を嫌っていた息子が徐々に母親の愛に気づいていく。男女共に登場する絵本。

 

コーディングは、絵本に描写されたジェンダーステレオタイプ に注目した坂西・ 大沢(1989)で使用された方法を基にしています。 

A. 挿し絵に登場する男女の数(積極的な男が主人公、従順な女が脇役、そして女性の不可視性を示唆し、そのようなステレオタイプを強化する可能性)

方法

一つ一つの挿し絵から判断基準が困難なものは除外し、総数を男、女、男の動物、女の動物、その他に分けて集計した。背景化された集団や、後ろ向き、顔の半分以上が切れている人物については、原則的に除外対象とする。また、主人公が挿し絵に頻繁に映り込む事実を踏まえて、内容と照らし合わしながら主人公の性別も同じように5項目に分けて集計した。(後に、おとなと子どもに分けることができるものは分ける)

 

B. 挿し絵に登場する男女の職業および活動の場(男は仕事、女は育児家事。男は活発、経済力がある、社会的に活躍する。女は良妻賢母、控えめであるといったステレオタイプを示唆、強化する可能性) 

方法

Aを参考に動物を含む男女、おとな・子どもを何らかの職業を持っている、家事をしているの二つで分類し、どちらとも言えないものは外にいるか中にいるか、または不明の3つで再分類する。

 

C. 形容詞・言葉に見られる男女の特徴(文 の語尾) (男女の性格に関するステレオタイプ示唆する可能性)

方法 

文章中の男女やおとなや子どもに関する形容詞を記録。また男女の会話文の語尾についても記録する

 

D. 男女の身体的表現・持ち物・衣服の特徴 (外見・美に関するステレオタイプを示唆する可能性)

方法

男女の身体的特徴を記録する。これには、衣服類、持ち物の特徴も含む

 

は、現代の日本で広く読まれている絵本がどの程度ジェンダーステレオタイプに影響されているのか、以下で分析結果を説明していきたいと思います。

A.挿絵に登場する男女の

なぞなぞのすきな女の子

エルマーのぼうけん

かあちゃん取扱説明書

   全体

女性:3  


女の子:14

男性:4


男の子:14 


男の動物:1

女性:14


男性:4


女の子:2


男の子:13

女性:17


男性:8


女の子:5


男の子:27


男の動物:1

全体としてはあまり目立った結果は見られませんだしたが、男女ともに登場する「かあちゃん取扱説明」に注目した時、男女比はバランスの取れたものになっていました。先行研究の結果とは異なり、現在売れている絵本の中において女性の不可視性は目立つものではありませんでした。

B. 挿絵に登場する男女の職業および活動の

なぞなぞのすきな女の子

エルマーのぼうけん

かあちゃん取扱説明書

全体

女性:家事1 中2


女の子:外7 中7

男性:職業4 

 (漁師・船員)


男の子:外13 中1

女性:家事7  職業2     (レジの店員) 

   中3 不明2


男性:中4  


男の子:外7 中6


女の子:中2

女性:家事8 職業2     中2


男性:職業4 中4


女の子:外7 中9


男の子:外20 中7

職業および活動の場に関しては、男女で著しい違いが認められました。大人の男性の場合、やはり仕事をしている様子が多く描かれていました。また、家庭内にいる時でもくつろいでいる描写だけで、家事を行なっている様子を描くものは一切ありませんでした。反対に、女性の場合、家事をしている様子が描かれているものが大多数を占めており、どの女性も主婦として登場していました。 仕事をしている描写は少しあったものの、それも家事と両立できるパートタイム労働に止まっています。女性の社会進出を推し進める昨今、未だ「男は仕事、女は育児家事」とのジェンダーステレオタイプが多くの現代の子どもが読む絵本に反映されているといえます。また、男女の子どもの場合では、男の子は外にいる描写が圧倒的に多く、女の子は外よりも内の描写が多い結果となりました。子どもでさえも「男は仕事、女は育児家事」に関連するような「男は外、女は内」といった固定化されたイメージが描写されており、読者である子どもの性役割の発達に悪影響を与える危険性があります。 

C. 形容詞・言葉に見られる男女の特

なぞなぞのすきな女の子

エルマーのぼうけん

かあちゃん取扱説明書

女性

 語尾:「わ」「そうねぇ」「ね」


女の子

 形容詞:「なまいきな」「かしこい」               「かわいい」

 語尾:「かしら」「ましょう」「わよ」

男性

 形容詞:「大きい」

 語尾:「だぞ」「ぜ」


男の子

 形容詞:「勇敢な」

 語尾:「だ」 「ぞ」 

女性

 形容詞:「おしゃれな」「若い」「綺麗」「やさしい」「かわいい」「すてき」 「かっこいい」

 語尾:「ね」「でしょ」「よ」


男性

 形容詞:「大きい」「頼り甲斐のある」

 語尾:「ぞ」


男の子

 形容詞:「正義感が強い」「優しい」「思いやりがある」

 語尾:「だ」「だろ」

男性・男の子と女性・女の子を修飾する形容詞・言葉(全体)

女性

男性

女の子

男の子

形容詩:「おしゃれな」

「若い」「綺麗」「やさしい」

「かわいい」

「すてき」 

「かっこいい」


語尾:「ね」「でしょ」「よ」「わ」「そうねぇ」

形容詞:「大きい」

「頼り甲斐のある」


語尾:「ぞ」「だぞ」「ぜ」

形容詞:「なまいきな」「かしこい」

「かわいい」


語尾:「かしら」「ましょう」「わよ」

形容詞:「正義感が強い」「優しい」

「思いやりがある」

「勇敢な」


語尾:「だ」「だろ」「ぞ」 

 

全体的に現代のジェンダーステレオタイプ に当てはまる多くの形容詞が見つかりました。例えば、女性・女の子では「おしゃれな」「綺麗」「かわいい」「すてき」などといった美・外見に関するステレオタイプ、「やさしい」などの性格に関するステレオタイプなどがありました。男性・男の子では、「頼り甲斐がある」といった社会的地位に関するものや「勇敢な」などの性格に関するステレオタイプが見つかりました。現代の子どもに広く読まれている絵本には未だジェンダーステレオタイプ が根強く描かれていることがわかります。しかし、「かっこいい」「思いやりがある」「生意気な」などの形容詞は先行研究のステレオタイプから変容を遂げており、中立的な言葉になっていることが判明しました。また、会話文の語尾に関しても男性・男の子は「だ・だろ」「ぞ・だぞ」「ぜ」など比較的語気の強い言葉が多く、女性・女の子は反対に「わよ・わ」「ましょう」「かしら」「ね」など比較的語気の柔らかい言葉が多くありました。女性の語気の柔らかい会話文からは、「言葉遣いのていねいな」「上品」「お しとやか」といった社会的地位に関するジェンダーステレオタイプが暗示されていると言えるでしょう。

D. 男女の身体的表現の特徴 (衣類、持ち物、装飾品含む)

なぞなぞのすきな女の子

エルマーのぼうけん

かあちゃん取扱説明書

全体

女性:黄色い服 エプロン 裁縫セット


女の子:ピンク色のスカート リボン 人形

男性:帽子 船の制服 たくましい体 


男の子: 帽子 青いズボン 赤い服 リュックサック

女性:丸みがある エプロン 裁縫セット




男の子: 鉛筆 ノート 短パン

女性:丸みがある エプロン 裁縫セット 黄色い服 


男性:たくましい体 帽子 船の制服


女の子:ピンク色のスカート リボン 人形


男の子:鉛筆 ノート   短パン帽子 青いズボン 赤い服 リュックサック

全体としてはあまり目立った特徴は見られなっかたものの女性はエプロンや裁縫セットといった「女は育児家事」のステレオタイプを補強するような衣類・持ち物が見受けられました。外見・美に関するジェンダーステレオタイプ(「色気のある」「たくましい」)をしばしば反映しているアニメとは違い(藤村・伊藤2004)、絵本はあまり固定的な身体的特徴を描写していないようです。 

 

まとめ

現代の子どもが読む絵本にはどの程度のジェンダーステレオタイプが描写されているかとの質問にに答えるため、調査を進めてきました。出版年が一番新しい「かあちゃん取扱説明書」の中では、女性の不可視性やいくつかのステレオタイプな形容詞が中立的になっているなど、先行研究の時代と比べ、ジェンダーフリーへの傾向は見受けらました。しかし、全体的に言えば、現代の子どもが読む絵本は未だジェンダーステレオタイプを描写しているようです。中でも絵本に描写されていた女性の社会的地位や美・外見に関するステレオタイプは男女の労働差別や過度なダイエット志向など社会問題を引き起こす一因になり得ます。現実の日本社会においては、家事をする男性や女性労働者が増加しており、固定的な男性観・女性観が崩れてきている側面はありますが、絵本内の女性パートタイム労働者が示すように、男性と同じ職種につくまでには至ってないのが現状です。上述したNarahara(1998)の研究にあるように、これらのジェンダーステレオタイプは子どもがジェンダー観を形成する過程において悪影響を与える危険性があります。固定的人間観にとらわれることのないジェンダーフリーな絵本が製作され、男女平等な日本社会を創りゆく後押しになることを願います。

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最後に、発展途上国においての絵本とジェンダーステレオタイプについてお話ししたいと思います。日本における現代のステレオタイプを調査した時と同じように英語圏アフリカのジェンダーステレオタイプについて言及する英文の文献をキーワード検索しました。貧困国ではまだまだ絵本へのアクセスが限られており、英語圏アフリカにおけるジェンダー研究は南アフリカに集中しているようです。(South Africa 1, South Africa 2, South Africa 3, South Africa 4, South Africa 5, South Africa 6, Kenya, Ghana, South Africa, and Uganda7, Uganda 8, South Africa 9, Uganda 10, South Africa 11)

これらの見つかった文献で言及されていたジェンダーステレオタイプをまとめたリストが以下です。

Gender stereotypes in Anglophone African countries

Men

  Women

 Personality

  • Violent
  • Virile
  • Tough
  • Dominant
  • Aggressive

Personality

  • Vulnerable
  • Dependent
  • Emotional
  • Compliant
  • Tolerant

Social status/value

  • Men should have social influence
  • Men should take leadership
  •  Men should have economic power

Social status/value

  • Less important
  • Less deserving of power
  • Women are not good at science and mathematics
  • Subjects for men’s pleasure

英語圏アフリカにおけるジェンダーステレオタイプの特徴としては日本のものと比べ、Violent(暴力的な)、dependent(隷属的な)、aggressive(攻撃的な)、less important(あまり重要ではない)などかなりネガティブな言葉が多いことです。これは発展途上国が抱える社会的問題とジェンダーステレオタイプが密接に関わり合っている証拠です。実際にエイズ問題や不平等な男女の性的関係などの背景にジェンダーステレオタイプが存在することを主張する文献が多く見つかりました。このように、未だ深刻なジェンダーに由来する社会問題を抱える多くの発展途上国において、絵本の持つジェンダーステレオタイプを無視して、良い側面だけに注目して子どもに寄贈していくことには危険性が伴います。国際教育協力分野では、絵本の配布が注目を集めるようになってきており、絵本に関してのジェンダー研究は重要な意義を持つことでしょう。

 

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