サルタックの教育ブログ

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国際協力NGOの汚職対応のジレンマ

今回はなかなか援助業界では表立って話されることのない汚職について書いてみたいと思います。
汚職は途上国に限ったことではありませんが、有効なガバナンス体制が確立されていないことが多い途上国では汚職が起こりやすい状況であると言えます。その途上国の最前線が国際協力NGOの活動地域です。
国際協力NGOの事業実施の現場のダイナミズムの理解なしに、有効な汚職対策を考えることは困難です。今後NGO自身、ドナー、市民社会などの様々なアクターが途上国の現場での汚職対策を考えるための一助となることを期待し、国際協力NGOが直面するであろうジレンマを書き記しておこうと思います。
そのジレンマはTransparency Internationalのレポートの中で紹介されている中からいくつか選び、それを独自に解釈してご紹介します。具体的な事例に基づいているわけではありませんので、その点はご了承ください。

汚職とは何か?

汚職には様々な定義があり、何を汚職と見なすかは各国や各文化で異なります。
Transparency Internationalの定義では、「権力や地位を乱用し、個人の目的に使用すること」とされています。
汚職は賄賂やキックバックといった金銭的なものだけではなく、援助物資を私的に横流ししたり、物資の見返りとして性的関係を要求するといった非金銭的なものもあります。
汚職ははるか昔から存在する人類の課題ですが、援助業界で汚職対策が強く叫ばれ始めたのは1990年代と言われています。
冷戦が終結し、市場開放と民主化が進む中で、説明責任や民主的なプロセス、透明性を求める風潮が強くなりました。そんな1990年代には腐敗認識指数を毎年発表しているTransparency Internationalが設立されています。
国際協力NGOも1990年代には重要なアクターの一つと認知されて、多くの寄付を集め世界中で活動する大きな団体も出てきました。そんなNGOに対しても援助者や市民から活動の説明責任を果たすことを要求されていったのです。
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援助と汚職のジレンマ

1、汚職の公表と組織の評判
汚職が仮に発生した場合、ドナーや一般向けに公表するべきですが、組織の評判を気にして公表を躊躇してしまうことがあると書かれています。
仮に組織内で汚職が見つかった場合、ドナーは制裁手段として援助金の返金を要求したり、今後の支援を中止するかもしれません。それは団体の存続に関わります。
デンマークのDenChurchAid(DCA)は組織のポリシーとして、汚職と汚職対策について公開するようにしているようです。
寄付文化が根付いておらず、公的資金に依存する団体が多い日本では、その影響力を考えて、より汚職の公開に後ろめたくなる可能性があります。

2、緊急性と透明性なプロセス
NGOの活動に限らないですが、現場での事業の実施では災害や紛争地域での活動などの緊急支援を中心に速断・速行動が求められる機会があります。
人の命を緊急で支援しなければいけないときなど速さが求められる場合、実施プロセスの透明性の担保がおろそかになる可能性があります。
速さを求めつつ実施プロセスの透明性を担保するためには、日頃から緊急時の実施体制を考えておく必要があります。

3. プロジェクトの期限と正しい使途
これもNGOの活動に限りませんが、プロジェクトの実施期間には限りがあります。プロジェクトの実施期間内に支払いを済ませないといけない一方で、正しいお金の使途を求めていかなくてはいけません。
適切な予算の計画・実施の重要性は言うまでもありませんが、往々にして年度末に予算の消化状況が芳しくないことがあります。予算を消化できないと、資金の返還や今後の予算のカットに繋がることも考えられ、あまり好ましくありません。

4、エンパワーメントと国際基準
NGOの活動の大きな目的の一つに現地団体・人材の自立が挙げられます。よく国際協力NGOは触媒であり、将来的には現地の団体・人たちがオーナーシップを持ち、自立して活動を持続させていく必要があると言われることがあります。そのため彼らをエンパワーメントし、会計などの団体運営の部分に関しても仕事をハンドオーバーしていかなくてはいけません。また活動の持続性を考えるのならば、現地の法制や現地のやり方を尊重したやり方を確立していかなくてはいけません。一方で国際NGOは主に資金を海外からもらっていることが多いことから国際的な会計基準で会計報告をしていく必要もあります。

5、透明性の担保と安全
事業実施時に実施プロセスの透明性を担保しなくてはいけないのは言わずもがなですが、主に紛争時にスタッフや受益者の身の安全とのバランスを取る必要があります。
例えば、車で移動中にゲリラグループに襲われている状況では、どうしても命の引き換えにお金の支払いが必要になってきます。もちろん事前に緊急時の対応について考えていくことは必要ですが、スタッフや受益者の安全が侵されるとプロジェクトどころではなくなってしまいます。

6、規則の厳しさと柔軟性
汚職は予防が命ですが、規則でがちがちにすればよいわけではないようです。
規則で縛りすぎると、通常の事業実施が非効率になりがちで、また守られない規則も出てきて実際的ではありません。
実施可能かつ有効な汚職予防策を実施していくためには現場での柔軟性が必要になってきます。

まとめ

国際協力NGOは透明性のある事業運営をして、ドナーや一般市民に対して説明責任を果たしていく必要があります。一方で途上国の現場では正論だけでは通せないような色々な葛藤が発生する可能性があります。汚職に対する理解がスタッフと異なり、じっくりと議論をする必要もあるかもしれません。地域によって取り得る対策は異なり、まずは現状のリスク分析が必要です。一方で事前に葛藤しそうなポイントを抑えておければ、対策を講じることができます。国際協力NGOの現場での実践が、より透明性のあるものとなり、ドナーや一般市民に対してしっかりと説明責任を果たすことができることを願うばかりです。

山田

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