サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。

情報は親の学校運営への参加を促進するのか①

ジャンボ!

ケニアからこんにちは。

 

今回は「情報は親の学校運営への参加に繋がるのか」についてブログを更新したいと思います。

2017年1月にはアメリカの研究機関Brookings Institutionから教育分野のアカウンタビリティ強化のための情報をテーマにしたリサーチペーパーも出たりと世界的に「情報×教育×親の参加」への関心が高まっているように感じます。

www.brookings.edu

当たり前ですが、何かを知るってすごく大事なプロセスですよね。

まず知らないと行動を起こすことはできません。

例えば、サッカーが強い学校に子どもを入学させたいとします。A校がサッカーで有名だということを知らないとA校に子どもを入学させるという選択の検討すらできません。

同様に自分の子どもが通っている学校で何が起こっているのか、課題は何なのかについて知らないと、親の具体的なアクションには繋がりません。

今回のテーマは学校のことを親が知って(つまり情報を得て)学校を良くするためのアクションを起こすのかについて考えていきたいと思います。

まずはなぜ親の学校運営への参加が現在重要視されているのかについてお話します。

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教育の質改善のためのアカウンタビリティー強化

途上国の教育の質の改善の議論の中で教育システムのアカウンタビリティー強化の重要性が叫ばれています。

ここでのアカウンタビリティーは説明責任と訳すより、「サービスの受け手に求められた結果を出す責任」と解釈した方が分かりやすいと思います。

従来型の学校建設や教材の配布のようなインプットの支援は、教育システムの構造的な改善には繋がらなかったと言われています。インプットがあってもそれを管理できるような体制がないと、インプットは適切な形で利用されません。例えば新しい教室ができても、そもそも学校に教員が来なかったら・教員が学校に毎日来るような管理体制がなかったら、教育の質の改善には繋がりません。

こうした教育システム・ガバナンスを改善し、行政が持続的に良質な教育サービスを受益者に提供するには、受益者が声をあげ、それに行政が応えるためのアカウンタビリティーを強化する必要があると言われています。

 

親の学校改善への参加(住民参加型学校運営)

学校レベルのアカウンタビリティー強化のためには住民や親が学校運営に参画する必要性があると言われています。(住民参加型学校運営)

学校改善のアクターは、中央政府や教育委員会といった行政組織と現場の教員に留まりません。地域の住民や親もそのアクターに入ります。

子どもや地域の状況を知っている親が主体的に学校運営に携わることができれば、地域や親のニーズを学校側に求め、教育サービスの改善を図ることができます。

また政府がサポートできない活動に対して、地域のリソースを動員して親たちが協力して学校を支えることができるかもしれません。

 

一方で多くの途上国では、親の学校運営への参加の有効性というより現実的な必要性から、親へ学校への貢献を求めてきました。

政府に十分な教育予算がなく、また資金が適切に現場に届かないことも多く、地域のリソースに頼らざるを得ないことが多いです。

1990年代から2000年代初頭にかけて多くの途上国が小学校の無償化を実施しました。

これにより小学校へ行ける児童の数は増加したのですが、増加する児童数に対応する教員雇用・配置が行われなかったり、教室数が不足していたため、教育の質は悪化したと言われています。

私が現在生活をしているケニアでも公立の小学校は公式には無料でも、教員の数が足りないため、親が追加的な教員の雇用のためにお金を出し合っている状況です。

しかしこうした親の学校への貢献はどちらかというと受動的です。

支払いが滞るとクラスに入れてもらえなかったり、バツが悪かったりするため、しぶしぶ支払っている親もいます。

 

このような受動的な参加ではなく、親を学校改善のパートナーとして認識し、学校運営への主体的な参加を促すためにはどうしたらよいのでしょうか。

まずは親の教育運営への参加のフレームワークを紹介したいと思います。

 

フレームワーク

親の参加を教育改善に繋げるフレームワークとして、

世界銀行のレポートWorld Development Report 2004の行政サービス改善のものがあります。これを教育に特化して議論しているのがBruns, Filmer and Patrinos (2011) Making Schools Workのこれまた世界銀行のレポートです。

世界銀行のレポートによると政府の教育サービスを改善するためにはaccountabilityが鍵だと述べています。

 

フレームワークは下記の図です。

 

 

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Bruns, Filmer and Patrinos (2011)

 

教育サービスの受け手である親を含めた市民(citizens/clients)は政治家を選び、行政に対して陳情することで(voice/politics)、サービスの改善を要求します。

この声を受けて、政府(the state)は教育サービスの直接的な供給者である学校や教員(providers)に行政指導や制度の改善(compact)を図ります。

結果として現場の学校が市民の声に沿った教育サービスを提供できるという流れです。

これを長いルートのアカウンタビリティー(long route of accountability)と言います。

一方、この長いルートのアカウンタビリティーは失敗する可能性があると指摘されています。

 

  • 選挙の争点はいくつもあり教育の改善だけで政治家を選んでいない
  • 政治家が市民の声に応えて教育改善を実施するとは限らない
  • 汚職により教育予算が適切に使われない
  • 政府が教育現場の管理ができず、教員が欠席するなど期待された教育の実施につながらない

などです。

 

これに対して世界銀行のレポートでは、短いルートのアカウンタビリティー(short route)の重要性を説いています。

市民が現場の学校や教員に対して直接、教育サービスの改善の声を挙げ、教育サービス提供の状況を自らモニタリングすることで(client power)、学校や教員が市民のニーズに沿った教育改善を実施できるからです。

 

アカウンタビリティー強化のためになぜ情報が必要なのか。

親がこのアカウンタビリティーの短いルートを使って、学校や教員に対して声を挙げるにはどうしたらよいのでしょうか。

学校運営の状況、学校や自分の子どものパフォーマンス、学習状況についてまずは「知る」必要があります。

また、教育開発が進んでいない地域では教育の重要性の啓発や具体的なアクションの示唆(例:家で子どもの宿題を見よう、学習時間を増やそう)など、親をエンパワーする情報も必要です。

従来型の学校建設や教材などインプットの支援はこの学校システムのアカウンタビリティ改善には繋がらなかったので、より多くの質の高い情報で親をエンパワーすれば学校に改善の要求をし、サービスの改善に繋がると期待されています。

多くの途上国の教育現場では、この教育に関する「情報」が親になかなか伝わってこない、また親が理解できる形・媒体で伝わってくることが少ないことから、

親が教育について知るための情報提供が必要であると信じられています。

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情報に関わる取り組み

実は教育分野で親やコミュニティに対して情報共有の活性化を目指して活動しているユニークなNGOがあります。

ケニア・ウガンダ・タンザニアの東アフリカ3か国で活動しているUWEZO(スワヒリ語でcapability)です。

www.uwezo.net

UWEZOは2009年より学校ではなく、各家を訪問し、世帯レベルで学力調査(6歳から16歳の基礎識字・計算能力)を実施しています。

世帯レベルの学力調査は不就学児童や休みがちの児童も含めた地域の学力の状況も分かるので、より地域の現実に即した学力結果が手に入ると言われています。

また従来の学力調査の主体は政府や国際機関でしたが、NGOが学力調査を実施しているのも革新的です。

この結果を公表し、教育改善のアクションに繋がるエビデンスを創出することを目的としています。

さらにUWEZOがユニークな点は学力調査の結果を政府や学校だけでなく、親にも提供している点です。

親が教育に関する関する情報を得て、声を挙げることで、政府や学校にプレッシャーをかけ、教育改善に繋げようという意図があります。

親に共有される情報は、自分の子どもの学力調査の結果だけでなく、教育の重要性の啓発カレンダーであったり具体的に取り得る教育改善のアクション(家で子どもと学校での勉強について話す、学校での会議に参加する)の示唆にも及んでいます。

 

情報は参加に繋がっていない?

このUWEZOの学力調査ですが、「ケニア全体で3年生の児童の3割しか2年生で習得すべきスワヒリ語・英語・算数のレベルに達していない」のようなショッキングな結果を公表して、ケニア政府に驚きを与え、小学校の初期段階での基礎学力改善の取り組みが始まっています。

一方、UWEZOの情報を受けた親の参加には繋がっていないのが現状です。

またケニアのUWEZOの情報共有の親の学校への介入の行動の結果を調べたPost-treatment調査においても統計的有意な効果が出ていません

情報の親の学校運営への参加への効果についての研究は数がまだ少ないのと、効果があった研究と効果がなかった研究が混在していて、コンセンサスが取れていません。今後の研究を待ちたいのですが、フレームワークの前提が現実では通用せず、情報が万能ではない可能性があります。

 

フレームワーク通りに解釈すると、

教育の情報を得た親は、学校に声を挙げるようになり、また学校のモニタリングなどに主体的に参加することで教育改善を図るということになります。また親の参加や声を受けて行政や学校は教育の質の改善に取り組みます。

 

次回は上のフレームワークが見落としている点や情報を与えるだけでは不十分であるという点を指摘したいと思います。

 

山田哲也

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