サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。(noteへブログを移行しました。新しい記事はnoteにアップされます→https://note.mu/sarthakshiksha)

サルタック・ブログの一年を振り返る:障害児教育の教育経済学からヒマラヤ、オックスフォード、そしてキリマンジャロの麓まで

新年明けましておめでとうございます!現在のサルタック・ブログ(はてなブログ)を2017年12月17日に始めてから、早くも1年が過ぎました。最初の記事は理事・畠山の「幼児教育から考えるーアメリカの研究結果は日本にとって妥当なのか?」、最新の記事はインターン・池田さんの「国際教育協力におけるエビデンスとMixed Methods」で、この間にネパールやケニアの教育事情、学校教育システムの日英比較、教育研究に関する最新の知見紹介など、様々なテーマで計40本以上の記事を皆さんにお届けしてきました。

これらの投稿を改めて振り返ってみると、手前味噌ではありますが非常に面白い示唆が随所に散りばめられています。しかし恐らく、すべてに目を通された方はあまり多くないのではないでしょうか。そこで今回は、2019年第1号ということで、2018年(+α)のブログ記事をアクセス数の多かった順番(Top20)で振り返ってみたいと思います!

 

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第1位:障害児をクラスメイトに持つと学びが阻害されるのか?-障害児教育の教育経済学(2018年5月、畠山)

具体的な数値は割愛しますが、サルタック・ブログ記事のアクセス数ランキングで圧倒的な1位に輝いたのが、理事・畠山による「障害児をクラスメイトに持つと学びが阻害されるのか?-障害児教育の教育経済学」です。この記事では、国際的に注目度が高まっている障害児教育に焦点を当てて、教育経済学の観点から最近の研究動向や筆者独自の見解を展開しています。障害児教育に関する話だけでなく、広く格差問題や比較教育・国際教育、さらには教育研究手法についても知見が深まる内容になっています。


第2位:学校にエアコンなんて贅沢か?-温暖化が進む世界で子供達の学習環境を考える(2018年6月、畠山)

2018年は日本でも酷暑が問題となりましたが、この記事では暑さが子供の学習成果に与える影響について直近の研究を紹介しつつ、学習環境の在り方について国際比較の観点も踏まえて考察を加え、根性論ではなく快適な学習環境を整備することの重要性を訴えています。

 

第3位:教員免許制度は不必要か?ー日本に雑に伝わった教育経済学の議論を再考する(国際教育協力も絡めて)(2018年2月、畠山)

新年早々、日本でも教員免許制度が必要かどうか、という点が一部で話題となっていますが、この記事は特定の経験や感覚に基づく主張とは一線を画し、教育経済学の知見から教員養成・教員免許について面白い考察を提示しています。同時に、「計量分析をして●●な結果が出た。だから▲▼な教育施策・実践を展開すべきだ!」といった安易な主張とは異なり、教育経済学の課題や発展可能性についても丁寧に解説しています。関連して、畠山は「日本の教員配置システムが優れている理由ー過度に分権化すると避けられない問題点」(2018年8月)という記事も執筆していますので、併せてご覧ください。

 

第4位:これからの「エビデンスに基づく教育」の話をしよう(1):「エビデンス」のレベル(2017年12月、荒木啓史)

「エビデンスに基づく教育」というフレーズが広く日本社会で浸透してきている一方、その意味が慎重に検討されないまま過度に矮小化された解釈が流布してしまっているのではないか、との危機感から書かれたシリーズ記事の第一弾です。この記事で「エビデンスの階層」について解説した後、第二回「RCTはどこまで『理想的』か」では精緻な因果推論を行う上で有用なRCTが必ずしも理想的なエビデンスになり得ないこと、第三回「複合的なエビデンスの重要性」ではRCT以外の「使えない」と思われがちなデータも重要なエビデンスとなり得ること、そして第四回「Theory of Changeの活用」では複合的なエビデンスに基づいて施策等を評価・検討する際の視点を紹介しています。

 

第5位:現在の国際的な潮流の中で、女子教育をもう一度考え直す(2018年7月、畠山)

執筆者の畠山は、サルタック・ブログ以外の媒体でも女子教育に関する論考を多数発信していますが、この記事でも国際的な潮流を踏まえながら、なぜ女子教育が重要なのか、そもそも女子の就学状況はどうなっているのか、そして現在の国際的な潮流が今後どのような影響を与える可能性があるのか、という点について分かりやすく解説しています。

 

第6位:公設民営学校とは何か?ー大阪市立水都国際中学・高校の事例からー(2018年4月、山田)

執筆者の山田はキリマンジャロの麓・ケニアで生活しており、国際教育協力に関する現場ならではの知見を色々と発信していますが、この記事では「公設民営学校」をテーマに、大阪市立水都国際中学・高校の事例を具体的に紹介しています。他の公立学校や私立学校との違いなど、制度面に関する入門記事としてもお読みいただけます。

 

第7位:国際比較教育学は終わった学問か?―日本は外国の教育から学ぶ必要などないのか?(2018年1月、畠山)

この記事では、(国際)比較教育学とは何か、この学問が持っている比較優位・劣位は何か、といった点を整理した上で、今後の展望について考察しています。また記事末尾には、大学での専攻に関する畠山の私見(国際教育協力を仕事にするために、国際比較教育学を専攻することについて・・・)も書かれており、特にこれから大学院進学を検討されている方には有益かもしれません。なお、国際教育開発の世界で長らく話題になっている「量(アクセス)」と「質」に関する話題は、「教育の質を改善することが、教育へのアクセスを改善するためにも重要である国の話」(2018年4月、畠山)をご覧ください。

 

第8位:幼児教育無償化から考えるーアメリカの研究結果は日本にとって妥当なのか?(2017年12月、畠山)

冒頭でも記載したとおり、サルタック・ブログ(はてなブログ)の最初の記事です。幼児教育無償化をテーマとして取りあげつつ、他国における特定の研究結果が日本の教育政策を考える上でどの程度役立つのか、仮に援用しようとした場合にどのような点に留意する必要があるのか、といった点を指摘しています。往々にして、米英の著名な大学教授などが研究結果を発表すると、無批判にそれを「エビデンス」として受け売りするケースが日本ではよく見られますが、それがなぜ危険なのか、この記事を読むとよくわかります。関連記事として、インターンの宮本さんが書いた「ネパールにおける幼児教育の状況―ヘックマンの議論のネパールにおける妥当性について」(2018年12月)では、ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマンらによる「早期の幼児教育は投資収益率が高い」という研究が、どの程度ネパールに適用可能なのか、という問に対して様々なデータを使って迫っています。また、畠山も別途「幼児教育の費用は政府と保護者、どちらが負担すべきなのか?」(2018年3月)という記事で、教育経済学の観点から費用負担について考察しています。

 

第9位:読み聞かせが子どもの将来を変える?〜脳科学からの示唆〜(2018年5月、石川)

この記事は、サルタック・インターンの石川さんが、読み聞かせの効果について脳科学の観点から執筆したものです。従来の社会科学的な知見とは異なり、言語習得プロセスにおける脳の働きなどについても解説しており、興味深い論稿となっています。石川さんは、この他にも「リテラチャーレビューの書き方」(2018年2月)の中で、先行研究をレビューする方法をステップ・バイ・ステップで丁寧に説明しています。これから大学・大学院等で研究を始めようと考えている方にはとても有益な内容になっています。 

  

第10位:OECD教育データが物語る「日本型教育」の特徴(2018年10月、荒木啓史)

OECDが昨秋公表した報告書「Education at a Glance 2018」の内容から、他国と比較した際の「日本型教育」の特徴を整理しています。記事末尾では、マクロ統計を使って国際比較をする際に留意すべき視点についても触れています。また関連して、「オックスフォード大学入学者データとOECDデータに見る『教育と公正・格差』」(2018年11月、荒木啓史)では、特に「公正・格差」に関する指標に着目して日本の実態を国際比較の観点から解説しています。(併せて、タイトルに見られるようにオックスフォード大学の入学者データについても紹介しています)

 

第11位:遺伝か環境か?ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション(2018年9月、荒木啓史)

人の能力や学歴のうち、どの程度が遺伝によって、どの程度が環境によって形作られているのか、という古くて新しいテーマに焦点を当て、ゲノム科学と社会科学の融合領域である「Sociogenomics」の最新の知見を紹介しています。その上で、単なる遺伝決定論や環境決定論からは距離を置き、当該テーマに関する研究結果を解釈する際の留意点や今後の展望についても論を展開しています。

 

第12位:チャータースクールとは何か?(2018年4月、山田)

タイトルから読み取れるように、しばしば耳にする「チャータースクール」とは何なのか、これが誕生してきた背景にはどのような社会情勢があったのか、また当初想定されていた成果に照らしてチャータースクールのパフォーマンスはどうなのか、といった点について分かりやすく解説しています。

 

第13位:ビルゲイツやザッカーバーグは救世主なのか、それとも破壊者なのか?-教育政策における新たな利益団体の話(2018年7月、畠山)

刺激的なタイトルのこの記事は、ICT教育に関する内容と思いきや、教育政策の形成・執行過程で大きな影響力を行使する利益団体に焦点を当てています。「伝統的な」利益団体と「新しい」利益団体の存在を整理した上で、後者が実際の教育政策・実践に与える(ネガティブな)影響に触れ、これからの国際教育協力で政府のキャパシティ向上やガバナンス強化が重要になると指摘しています。

 

第14位:意外と難しい教育セクターでのランダム化比較試験(RCT)の実施(2018年10月、畠山)

サルタック・ブログでは各所で「ランダム化比較試験(RCT)」のメリット・デメリットについて議論を展開していますが、この記事では、そもそも教育分野でRCTを実施するとはどういうことなのか、という点について具体例を交えて解説しています。その上で、実際にRCTを使って有用なエビデンスを導くことの難しさを説明しつつ、それでも着実にエビデンスを蓄積していくことの重要性を訴えています。また、関連記事「エビデンスに基づく政策のためのランダム化(RCT)のような実験は、言うほどには教育セクターで必要ないかもしれない話」(2018年11月、畠山)では、「擬似的なランダム化状況」や「回帰不連続デザイン」などを紹介し、ランダム化の実験(RCT)をむやみに追い求める必要がない可能性を指摘しています。

 

第15位:日本の国際協力NGOの定義と資金・収入の状況をまとめてみた(2018年3月、山田)

NGOに新卒就職し、NGO業界で転職をした山田が、国際協力NGOの定義や組織体制、ファイナンスなどについて網羅的に解説しています。米英と日本の違いについても、面白いデータが示されています。また、関連する内容として、別途「市民社会とは何か?NGOと市民社会は同じなのか?」(2018年6月、山田)という記事もご覧ください。その他、国際教育協力の「現場」に精通する山田が執筆した「情報は親の学校運営への参加を促進するのか①」(2017年12月)、「情報は親の学校運営への参加を促進するのか②」(2018年1月)、「国際協力NGOの汚職対応のジレンマ」(2018年9月)、「ニジェールでのJICA発みんなの学校プロジェクトとは何だったのか」(2018年10月)、「みんなの学校プロジェクトも含めて自律的学校運営(SBM)のインパクトって実際どうなの?」(2018年12月)も、地に足の着いた情報にあふれています。 


第16位:文部科学省汚職と競争的資金を、オバマ政権の経験から考える(2018年7月、畠山)

この記事では、とりわけ競争的資金に焦点を当て、オバマ政権時代に導入された関連施策をレビューした上で、日本において競争的資金を導入することの是非について、想定される効果と問題点を解説しています。さらに、国際教育協力分野における成果ベースの資金配分についても、その限界を慎重に指摘しています。

 

第17位:ある教育施策の効果は人によって全然違う?―教育効果の異質性とMixed Methodの話 (超エリート寄宿学校を事例に)(2018年12月、畠山)

畠山は、他の記事でも見られるように統計データ等を用いた定量的なアプローチを得意としていますが、この記事では同時に定性的なアプローチについても目を配り、定量・定性双方を組み合わせたMixed Methods(混合研究法)の重要性を指摘しています。その中で、「教育効果の異質性」や「トライアンギュレーション」といった基本的な概念及びそれらを意識する必要性についても分かりやすく解説しています。なお関連する内容として、インターンの池田さんは「国際教育協力におけるエビデンスとMixed Methods」(2018年12月)という記事でMixed Methodsに関する知見をさらに深めています。今後、これらの内容を踏まえて池田さんはMixed Methodsのレビュー記事を書いてくれる予定ですので、乞うご期待ください。

 

第18位:ネパールの教育概要をイチから説明する(2018年1月、サルタック・ネパール事務所)

この記事では、サルタックの主な活動拠点であるネパールの教育事情について、現地事務所が概要を解説しています。この記事を皮切りに、「新ネパール 連邦制の下で教育はどこへ向かうのか?教育の地方分権化の課題を先取りする」(2018年2月)、「ネパールで拡大する「ウェルカム・トゥ・スクール」キャンペーン」(2018年4月)、「学習危機の中心にある教員問題」(2018年7月)をお届けしてきました。さらに、インターンの石川さんはネパールで現地事務所のサポートをした経験から、「インターンによるネパール訪問記」(2018年9月)を執筆し、現地の活動状況を具体的にレポートするだけでなく、石川さん独自の現地調査結果についても紹介しています。

 

第19位:絵本は子どもにとって本当にいいことばかり?ー絵本に潜むジェンダーステレオタイプ(2018年9月、加賀谷)

サルタックでは、絵本の読み聞かせを一つの活動の柱に据えていますが、そうした活動によってネガティブな影響が生み出される恐れはないのか、あるとすればどのように対処する必要があるのか、という点を常に考えています。そうした背景を踏まえて、インターンの加賀谷さんが執筆してくれたのがこの記事で、ジェンダーバイアスの観点から、絵本を通じてステレオタイプが刷り込まれる危険性について指摘しています。また、テーマは変わりますがインターン・吉川さんによる論稿「教育は民主主義をより良いものにできるのか?-教育を機能させるために必要な条件」(2018年12月)は、「教育と民主主義」という古典的ながら非常に難解なテーマについて、特に投票行動と教育水準の関係に焦点を当て、実証研究を丁寧に紐解きながら独自の解釈も交えて論を展開しています。記事末尾の「まとめ表」だけでも一見の価値ありです。

 

第20位:日英比較から考える、「小1の壁」(2018年3月、荒木真衣)

この記事では、2児の母でもある荒木真衣が、英国オックスフォードで子供たちの学校生活を観察して得た気づきをもとに、日英比較の観点から、日本で大きな社会的課題となっている「小1の壁」について考察しています。これ以外にも、荒木真衣は日英比較シリーズとして、「日英小学校のクラブ活動から、学校内の役割分担を考える」(2018年6月)、「日英比較から考える、先生への期待 ~日本の先生が忙しいのは?」(2018年8月)、「学校での“食”をめぐる日英比較~給食に求めるものは?」(2018年10月)の中で、オックスフォードの公立小学校における面白いエピソードを交えながら、日本の教育・社会に関する「発見」を発信しています。

 

以上で振り返ってきたように、サルタック・ブログでは多岐に渡るテーマについて、各執筆者が独自の観点から発信してきました。中には、「それ違うでしょ!」と他のサルタック関係者が思うような内容もあったりしますが、全体を通じて共通しているのは、世間で流布しているような「常識」や「通説」にとらわれず、慎重に「エビデンス」を見極め、ときに自分たちで「エビデンス」を作り出し、それを踏まえて(based/informed)求められる施策や実践を考える、というスタンスを大事にしている点です。それがどこまで実現できているか、という点については、読者の皆さんに委ねるほかありませんが・・・少なくともこの姿勢は、いわゆる「フェイク・ニュース」も含めて様々な情報が多用な媒体を通じて容易に拡散する中で、ますます重要になってきていると考えています。2019年も(それ以降も)、そうした見地から引き続きブログ記事を発信していきますので、お気づきの点がありましたら是非ご遠慮なくお知らせください(私たちのブログ記事に対する批判や厳しいご指摘・ご要望も大歓迎です)。また、こんなサルタックに少しでも共感いただけるようでしたら、是非私たちの活動にご支援をいただければ幸いです。

本年も、どうぞよろしくお願いします! 

荒木啓史

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