サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。

みんなの学校プロジェクトも含めて自律的学校運営(SBM)のインパクトって実際どうなの?

流行りに乗ってエチオピアのダナキル砂漠に行って来ました。軽装でも行けるだろうとなめてかかったら見事に体調を崩した山田です。
前回はJICAみんなの学校プロジェクトをべた褒めした記事を書きましたが、今回は少し冷静に実際のところのエビデンスはどうなの、本当にSBMは効果があるのかというところのお話をしたいと思います。
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1.自律的学校運営(SBM)のフレームワーク

自律的学校運営(SBM)の行政機関が説明責任を果たすルートのフレームワークが下記のようになります。
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細かい用語の説明は省きますが、通常は親や地域住民を含む市民(Citizens/clients)が政府(The state)に対して声をあげたり、政治家を選挙で選ぶことに応じて政府が教育サービスの質を改善することで説明責任を果たします(Long route of accountability)。一方でこれは時間がかかること、一般市民は教育政策のために政治家を選んでいるわけではない、政治家が選挙時に約束したことが実際に実施されるかわからないことなどから実際に行政サービスが改善されるかはわかりません。
一方でSBMでは意思決定の権限を学校レベルに落とし、意思決定機関である学校運営委員会(School committee)に教育サービスの受け手である親や地域住民が参加し、意思決定に対して声をあげ影響を与えることで、現場の教員(Providers)はより地域のニーズにあった改善された教育サービスを提供するようになる(short route of accountability)ことが想定されています。

2.JICAのみんなの学校プロジェクトのインパクト

今回の記事ではインパクトとしては基礎教育(初等・中等レベル)レベルの教育成果(アクセス・学力の向上)に注目します。
(コミュニティのリソースの動員や学校運営への参加、教員の変化といった教育成果への媒介的な成果は今回は見ていません。)

sarthakshiksha.hatenablog.com

ニジェールの国家モデルとして採用されたみんなの学校プロジェクトのSBMモデル。
プロジェクト関連書類では、プロジェクト実施州で就学者数、就学率の向上、女子就学率、小学校終了試験合格率も上がったとありますが、
みんなの学校プロジェクトの純粋な介入の成果であると断言することはできません。
同様のモデルはアフリカ諸国に飛び火し、ブルキナファソではみんなの学校SBMモデルのインパクト評価が実施されました。この評価では、みんなの学校SBMモデルが導入される学校とされない学校がランダムに振り分けられ、モデル介入の有無によるインパクトが測られました。簡潔に結果を示すと就学率は向上、留年率は低下、一方で学力に統計的な有意な影響を見られませんでした。

アメリカのSBM経験によるとSBMが学校レベルでの変化を起こすのには5年かかり、テスト結果のような指標を変えるには8年かかると言われていますが、今回の評価では学校運営委員会の委員が選ばれた6か月後に介入後のテストの結果が見られているので、SBMのインパクトを見るには時期尚早な感じはかなりありますが、少なくとも短期間の間では学力(テストの結果)の改善は見られませんでした。また学力の改善がなされないまま、留年率が低下したことは、ちゃんとした学力を身に着けないまま進級してしまったと解釈することもでき、留年率が下がったことも手放しでポジティブなインパクトであると喜べないような気もします。

3.SBMのインパクト

では一般的なSBMのインパクトはどうなっているのでしょうか。
その前に簡単にSBMのインパクトの一般的な示唆を得る困難さを書いておきたいと思います。

・SBMの形態が様々

どの権限(例:学校予算、教員採用・配置、教材の調達)がどのレベル(例:教員、親、コミュニティ、その混合)にどの程度任せられるかが国やプロジェクトにより異なり単純な比較が難しい。

・SBMプログラムの目標が様々

SBMプログラムは必ずしも学力などの教育成果の向上を目指してデザインされていない。政府が出せない地域や親からのリソースの肩代わりを目指している場合はそもそも教育成果の指標すら取られていない場合もありそうです。

・SBM導入が他の教育援助の前提になっている。

特に世界銀行は世界中でSBM政策の導入を進めています。途上国政府に教科書や無償化政策を支援する見返りにSBMの導入を前提として進めている例もあります。
RCTをして厳密にSBMの効果を分析している研究プロジェクトは少なく、プログラムの成果を単に示しているペーパーでは純粋なSBMのインパクトのエビデンスを抽出するのが難しいです。

・SBMのインパクト

実は世界各国のSBMのインパクトもみんなの学校プロジェクトのインパクト評価と似た結果となっています。世界銀行のレポートロンドン大学教育研究所の教授陣のSystematic literature reviewレポートでは、エビデンスがラテンアメリカに偏っているものの、過去のSBMプログラムの論文やレポートでは全体としては留年率・退学率を下げるという結果が良く見られます。
一方で学力(算数や国語のテスト結果)の改善の結果は上がった、インパクトがあったと言えなかった、下がったという結果が混在しています。

調査論文の数が限られており、またその調査手法にも問題があり、今後より多くの研究がなされるべきだと思いますが、今あるエビデンスの中から判断しようとすると、
SBMは就学・退学・留年のようなアクセスの改善には繋がる傾向があるが、学力の改善に関してはわからないということになります。
親や地域住民が学校運営に参加することで、彼らが子供を学校に来させる施策(例:教室の増築、地域住民への教育認識の向上、不就学児童の就学)を取ることは比較的易いのかもしれません。
一方で学力改善に繋がる施策(例:教員の態度・勤怠、教授法の改善)となると、途上国の親や地域住民にはテクニカルで難しいのかもしれません。テクニカルに教育の質を改善するにはある程度の教育レベルが必要です。実際教員などの学校関係者よりも親の教育レベルが低い場合、SBMの効果は薄いと報告されています
また学校内の改善は教師の反発を生む可能性もあります。

4.まとめ

ここで最初に紹介したSBMの説明責任のフレームワークに立ち戻って考えてみたいと思います。フレームワークの前提によると、教育サービスの受け手である親や地域住民が、学校運営の担い手となり、教育サービスの供給者である学校や教員へ声をあげ、意思決定に影響を与えることでサービスの改善を測ることができるというものでした。
一方で現場では学校内の実践の改善のような教師の聖域とされている部分に関して親が入り込んでいくことは、サービスの改善に繋がるどころか対立や不信感を生むリスクが高そうです。そうなるとこのフレームワークが前提としている改善のメカニズム自体が破綻してしまうことになります。
ボトムアップで下からの声に応じさせ、行政に説明責任を果たさせるといった使役的な痛みを伴うサービス改善ではなく、まずは教師と良い関係を作り信頼関係を醸成すること。その信頼に基づいた関係性の中から徐々に親・学校側がお互いを助け合いながら協同して学校を良くしていく。それが時間はかかるかもしれないけれど、結果的には教育サービスの改善に繋がるのではないかと思う今日この頃です。

最後に、SBMのインパクトを測る際に、ジェンダーや子どもの貧困、民族、宗教などの子どものバックグラウンドを考慮した研究はかなり少ないようです。学校運営委員会の存在や学校運営委員会による学校への金銭的な貢献が女児の退学を減らすという研究結果も出ています。またSBMの費用対効果を調べたエビデンスも欠如しています。今後公平性や費用対効果の観点からもSBMのエビデンスも集めていく必要があると感じました。

山田
sarthakshiksha.hatenablog.com

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