サルタックの教育ブログ

特定非営利活動法人サルタック公式ブログ。教育分野の第一線で活躍するサルタックの理事陣らが最先端の教育研究と最新の教育課題をご紹介。

日英小学校のクラブ活動から、学校内の役割分担を考える

こんにちは!今回は、小学生の親目線からの、イギリスの学校エピソードを通して日本の教育を考えるシリーズです。数か月前に日本では「小学校の部活動廃止」が話題となりましたが、ここでは、イギリスの小学校のクラブ活動をめぐるエピソードを紹介したいと思います。学校カリキュラムの本筋からやや逸れますが、クラブ活動をはじめとする小学校内の役割分担や教職員構成の日英の違いをみてみることで、日本でしばしば問題視される教員の多忙な現状についても考えたいと思います。

なお、イギリス(イングランド)の学校制度や小学校の種類については、前回の記事「日英比較から考える、『小1の壁』」をご参照ください。

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放課後のクラブ活動

日本で話題となった「小学校の部活動」をめぐる議論は、名古屋市が2020年度限りで市立小学校の部活動を廃止する方針を表明したことから改めて注目されました。この部活動廃止の方針は、教員の長時間労働という問題への解決策として打ち出されたものです。日本では、部活動は中学校や高校では学習指導要領に「学校教育の一環」として記載されていますが、小学校においては「学校や地域の実態等を考慮しつつ」クラブ活動を実施することとなっています。このため、実施方法については学校の裁量によるところが大きく、小学校教員の業務負担の軽減策を考えるうえで改善の余地があり、名古屋市として統一的に部活動を廃止することにしたそうです。一方で、学校外の人材を活用することで、児童の活動・経験の機会は維持を目指すとのことです。

イギリスの公立小学校でも、ちょうどこのようなクラブ/activity(以下、「クラブ活動」)を、学校によっては、実施しています。

我が家の子供たちが通う公立小学校(community school)では、小学1年生になると学期ごとに好きなクラブ活動を選び無料で参加することができます。クラブ活動の種類は確保できる指導者/担当者の人材に応じて学期毎に様々ですが、アート、レゴ、チェス、コーディング、ダンス、ヨガ、テニス、サッカー、ホッケー等々。時には、イギリスらしくクリケットが選べたりもします。他の学校では、ドラマや中国語、フランス語などもあるそうです。このクラブ活動の運営は各学校の裁量に依るようで、子供たちの学校では今は毎学期10種類ほどのクラブが運営されていますが、先代の校長先生の頃はクラブ活動は行っていなかったそうです。なお、クラブ活動は放課後に行われるのですが、イギリスでは小学校は基本的に保護者の送り迎えが必要なため、クラブ活動に参加するとお迎えの時間が一時間遅くなり、お迎え担当としては、注意が必要です。

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ある日のエピソード ~クラブ活動はいつまで?

ある朝、学校に行くと入り口で「クラブ活動がいつ終わるか」が議論になっていました。「先週で終わりだってクラブの先生が言ってた」と子供が主張すると、「まだ学期末まで1か月もあるから今終わるはずがない」と諭す学校スタッフ。両者譲らず、放課後にクラブ活動の先生が現れるかどうかで判断することに。(そもそも、その先生に電話で問い合わせてくれれば直ぐに確認できたのではないかと思うのですが。)結局、放課後に先生は現れず、クラブ活動はもう終わったらしいと明らかになったようです。

その数日後、各クラブ活動の終了時期についての貼り紙が学校に掲示されました。よかった、これではっきりした、と思って貼り紙を見てみると、なんと娘が参加していてもう終わったと思っていたダンスクラブの終了時期は来週であることが判明!気づいてよかったと思いながら「もうクラブはないって、ダンスの先生が言ってたよ!」という娘に掲示板を示しつつ説明し、夕方クラブ活動終了時刻にお迎えに行くと。。。「やっぱりクラブなかったよ!」と一時間待ったためか立腹した様子の娘。来週まであるはずではと驚いて学校スタッフに確認すると、「クラブはないから迎えに来るようにと電話したけど出なかった」と。確かに携帯を確認できていなかったけれど、掲示板には・・・と反論しようとすると、「他の子はみんな帰ったし、迎えが来ていないのは二人だけだ」と言われる始末。ちなみに、もう一人残っていた子も日本人でした。

 

イギリスの小学校で働く先生たち ~教室内外のサポートの充実

この状況を経てはっと気がつくのは、イギリスにおいては教職員間の役割分担がはっきりしているということ、そして、学校からの情報に誤りがあっても学校側も家庭もあまり気にしないということです(もちろん、学校差・個人差はありますが)。

まず、教職員間の役割分担について詳しく見てみると、イギリスの小学校にはいろいろな役割を持つ人が働いています。各クラスの担任の先生の他、Teaching Assistants(授業についていけない児童のサポート等を担う)、事務運営スタッフ、調理スタッフ、お昼休み時の支援スタッフ、設備・施設の管理スタッフ、清掃スタッフ等々。図1はイングランドにおける公立小学校・保育園で働く教職員の人数構成を表したものですが、Teachers、Teaching Assistants、Support staff(教育以外の事務等の仕事を担う)がそれぞれ約3分の1ずつの割合となっています。

 図1 公立小学校・保育園の教職員人数構成(イングランド、2016年11月)

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 出所:英国政府HP「National Statistics - School workforce in England」から筆者作成

 一方で、イギリスの小学校ではパートタイムで働く教職員が多いことから、フルタイム換算をしたイングランドの公立小学校・保育園の教職員数と、その変遷を確認すると、図2のようになっています。ここ十数年で教職員の構成が大きく変化したことが分かります。つまりTeaching AssistantsやSupport staffが2000年には教員の約4分の1の割合であったのに対し、ここ十数年でその割合が大きく増え、2016年にはそれぞれ約80%、約60%にまで高まったということです。

 

 図2 イングランドにおける公立小学校・保育園の教職員数の変遷(フルタイム換算)

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 出所:英国政府HP「National Statistics - School workforce in England」から筆者作成

この背景には、教員の高い離職率に対する人材確保のための改革がその一つとして挙げられます。1990年代後半から給与体系の改革がなされた他、2003年には教員の過大な業務量を減らすための改革もなされました。具体的には、政府と教員組合等によって2003年にNational Workload Agreementが締結され、教員がすべきでない業務(集金、欠席管理、大量のコピー、手書き文章のタイピング、クラス名簿の作成、教室内のディスプレイ、試験監督、児童生徒の情報管理、備品管理、等々)がリストアップされました。このため、これらの業務に対応する人材としてTeaching AssistantsやSupport staffの雇用が進んだことが見て取れます。(なお、この改革は、正規雇用から臨時スタッフへのシフト、すなわち新自由主義的な雇用体制の変化という、世界的な潮流に乗ったという側面もあるようです)この結果、学校における業務の役割分担が進んだと考えられます。

実際に我が家の子供たちが通う公立小学校でも、特に有資格者であるTeacherが行う教育/授業と、アシスタント業務(授業についていけない生徒のヘルプやお昼休み時の監督等)や学校運営(事務・会計、PTAの運営やイベント企画等)の役割分担がしっかりなされていて、それぞれの「自主性」が尊重されているように感じます。前述のエピソードの通り、クラブ活動も各クラブ活動を担当する指導者(多くは学校外の人材)に任せられているため、(各クラス担任の先生は勿論、)校長先生も事務運営のスタッフも、個々のクラブ活動がいつ終了するのかを把握していなかったことに加え、自分の職務範囲ではないので、事務スタッフが敢えて調べることもなかったのです。このため、放課後にクラブ担当者が来るかどうか見てみよう、というような状態になったと考えられます。各クラブ担当者の「自主性」を尊重したということでしょうか。(ただし、クラブ活動の有無によって子供の下校時間が変わるので、学校としてもクラブ活動の実施期間については重要事項である気がします。。)

 

日本の小学校で働く先生たち ~ほとんどは「先生」

では、日本の公立小学校で働く教職員の構成はどうなっているのでしょうか。図3のように、正規に採用された教諭が7割を占め、講師や兼務者(非常勤講師等)を除く残りの約17%が教室以外の業務を専門に担う、事務職員、養護教諭・栄養教諭、図書館事務員、給食調理従事者、用務員等の教職員となっています。なお、日本では講師も基本的には教員免許を持っており、各学校の状況によりますが教諭と同じようにクラスを担当することも一般的です。つまり、小学校の教諭や非常勤を含む講師はともに「先生/教員」としてクラスを担当したり授業を受け持ったりしている立場にあります。

 

 図3 公立小学校・幼稚園の教職員構成(日本、2017年5月)

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 出所:平成29年度学校基本調査から筆者作成

日英を比べると、日本の小学校という職場環境は授業を受け持つ「先生/教員」がマジョリティであることが浮かび上がってきます。つまり、イギリスでは、先生を教室内で支えるアシスタントと教室外で支えるスタッフが充実してきたのに対して、日本の小学校では、授業を担当する先生に対して、先生を教室内外でサポートする教職員の割合が小さく、先生の職務範囲が広いのではないか?と推測できます。このように、冒頭で述べた日本の教員多忙化の問題は、この教職員の構成・役割分担における日英比較からもその一端が伺えます。

実際に、教員の職務内容は多岐にわたり教員の多忙化・長時間労働問題を引き起こしているとして、文部科学省内に「学校現場における業務の適正化」に向けて教員の職務内容の再検討を行うタスクフォースが2016年に設置され、必ずしも学校・教員が「担う必要のない業務」の選別も検討され(特に、登下校時の対応、学校徴収金の徴収・管理、部活動等)、2017年には学校における働き方改革特別部会による緊急対策が取りまとめられています。

 

日本の教員多忙化を改めて考える

ただし、日本でも教員をサポートするスタッフをたくさん雇用すれば問題は解決するかというと、必ずしもそうとは限らないのではないでしょうか。即ち、日英では教職員の役割分担の仕方が異なるため、例えばTeaching Assistantsの採用を進めたとしても、教員の多忙化問題の根本的解決にならない可能性があります。

イギリスにおいては前述の通り、教職員間の役割分担がはっきりとしていて、自分の業務分担を超えてカバーすることは求められていません。教員は自分のクラスの児童に関わることであっても、業務範囲以外のことであれば対応する必要はなく、周囲もそれを当然のこととして理解しています。

一方で、日本の小学校においては、例えば小学校の担任クラスを持つ場合は、クラスに関すること全体を管理/児童一人ひとりを把握していることが親からも期待され、更に校務分掌の担当もあります。加えて、業務の境界が明確でなく、それぞれの教員がカバーしあって学校運営にあたることが期待されているのではないでしょうか。このため、Teaching Assistantsを雇用しても、クラスの出席・成績管理やクラス便りの作成等、やはり担任として教員が対応することが求められる可能性があります。

ここで思い出すのは、前述のエピソードにおいて、学校の掲示板にも拘らず多くの(日本人以外の)子どもたちはクラブ活動がないと判断して帰っていたということです。つまり、学校の掲示板ではなく、クラブ活動担当の先生の発言に従った(あるいは、そもそも学校の掲示板の存在を意に介していない)ということです。私たち日本人には、先生間の役割分担を意識する機会が少なく、教職員間での情報ギャップがあることを理解していなかったため、事務スタッフが作成する学校掲示板の情報はクラブ活動の先生の情報と同じはずと理解して、子供からの伝聞情報と異なっていても、安心して掲示板に従ってしまったのです。

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このように考えてくると、日本の先生は様々な期待に応えることが求められていることに改めて気づきます。「先生≒学校」というイメージがあり、「先生」と言った場合に個別の先生というよりも学校全体として捉えられ、先生は各クラスについてだけでなく学校のスケジュールや学校行事の企画内容等を把握していることが当然視されているように思います。そしてもし把握していなかった場合でも、児童が必要な情報を得るために尽力することが期待されているのではないでしょうか。

学校運営に各教員が参画していているとも表現できるこの日本の体制は、学校のマネジメントとして一体感があり、親としても安心感があります。一方で、日本における教員の責任範囲は、非常に大きくなっているように思います。このような「先生≒学校」「業務範囲に拘らず子供のために尽くす」といった社会からの期待が、教員の多忙な勤務状況の一つの要因となっているのではないかと考えられます。

 ちなみに、次の学期には学期が終わる数週間前にクラブ活動の終了時期が貼り出されていましたが、クラブ活動の中にはその時点では既に終わっていたもの(数週間前の日付のもの)、終了時期が未確認のもの(日付の記載がないもの)もありました。

 今回は、日英における学校教職員の構成・役割分担の違いという観点から、日本における先生≒学校への期待を再認識しました。次回は別のエピソードから改めて先生の多忙さについて考えたいと思います。

 

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