サルタックの教育ブログ

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チャータースクールとは何か?

今回はこのブログで何度も名前が出てきているチャータースクールが特に盛んなアメリカの事例を紹介します。

日本でも大阪市で開校予定の民間が運営する公立学校。

アメリカでは、すでに民間が運営する公立学校(チャータースクール)が存在しています。

チャータースクールが誕生してきた背景に触れた後、実際のところのパフォーマンスはどうなのか?

全ての子どもたちに教育機会を提供できているのか?を考えていきたいと思います。

1. チャータースクールの概要

チャータースクールとは民間が運営する公立学校です。

大阪の公設民営学校と同様で、運営は民間が担いながらも、学校運営の資金は行政から下りてきます。

大阪市の公設民営学校の場合は、国の規制緩和政策の下、市が設立し、運営者を公募する形で公設民営学校が作られますが、アメリカのチャータースクールの場合は、州法でチャータースクール設置の許可が定められ、その後民間組織が設立を希望し、認可を受けると公的資金の援助が得られ、学校が設立されるになっています。

1991年にミネソタ州で設置されて以来、2011年度には42州、プエルトリコ、コロンビア特別区でチャータースクールを許可する法律ができました。

チャータースクールは下記のように増加傾向で、2012年度には全米で6004校のチャータースクールは存在し、全公立学校のうち6.3%をチャータースクールが占め公立学校の児童数の4%がチャータースクールに通っています

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(http://www.in-perspective.org/pages/introduction)

チャータースクールの名前の由来は、政府機関などによって発行されるチャーターと呼ばれる法的契約に基づいて運営されているからです。

基本的にこのチャーターを発行するのは学校区の教育委員会です。

アメリカは教育の分権化が進んでいて、州のカリキュラムはガイドラインにとどまり学校教育は学校区の教育委員会に委ねられています。教育委員会といっても日本のそれとは性格が異なっていて、この教育委員会は市町村等の行政機関から独立し徴税権を持つ教育に特化した行政単位で、州の中でも学校区ごとに多様な教育が行われています。

日本では公設民営学校であっても政府が定めた学習指導要領(カリキュラム)に従わなくてはいけません。

アメリカの場合は、同じチャータースクールであっても場所によってチャーター(学校区との契約)の内容が異なっていたり、州によって規制緩和の程度が異なっています。

基本的には到達目標があり、その到達目標が満たされないとチャーターは更新されないか廃校になります。通常チャーターの期間は3~5年でチェックされます。

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2. チャータースクール誕生の背景

チャータースクール誕生の背景の一つには、アメリカの連邦政府の教育への政策的な介入が増える中で、学力改善への説明責任を求めていく過程で生まれてきたと言えるでしょう。

上で紹介したようにアメリカの教育は当初から分権的なシステムで、学校区の教育委員会が大きな力を持っていて、連邦政府が教育に関わる範囲は限られていました。

学校区の教育委員会は学校区の徴税権を持っています。この税金が学校区の教育予算の原資になります。ということは学校区の資産規模が教育予算に直結することになります。

アメリカはご存知の通り、収入や人種によって住む場所が異なっているため、豊かな学校区は潤沢な資金の下学校を運営することができる一方で、貧しい学校区では十分な教育資金を捻出することができず、公教育の地域格差・人種格差が歴史的に進んでいってしまったという面があります。

公民権運動などで人種問題などが政治的に市民権を得てきたことも関係し、国家が教育格差の改善に向けて介入し始めました。

そんな中、1983年に発表された報告書「危機に立つ国家(A Nation at Risk)」がアメリカの教育レベルの低下を提起し、このことが公教育システムの改善・見直しに繋がっていきました。

この頃から連邦政府の公教育への政策的介入は増してきて、父ブッシュの教育政策を引き継いだクリントン政権下ではGoal 2000:アメリカ教育法を制定し、州に対して学力の向上への説明責任を求めました。具体的には全米学力標準の達成に向けた学校改善計画を作成した州に補助金を交付する制度を作成しました。

このような流れの中で、公教育を改善する手段としてチャータースクールが90年代に生まれてきました。

クリントン政権下ではチャータースクール開設支援の補助金が州政府に交付されるなど、国家や政治的な後押しを受けてチャータースクールは普及していきました。

チャータースクールは到達目標が達成されないと廃校になります。また子ブッシュ政権の教育政策(No Child Left Behind)により連邦政府が公立学校に対してテストの成果目標の達成を要求するようになっています。このような流れはチャータースクールを含めた公立学校がよりテストの結果の改善の説明責任を上(連邦政府、州政府、学校区)から求められるようになったと言えるでしょう。

今回は主に国家への結果の説明責任の観点からチャータースクール誕生の背景について触れましたが、単純に連邦政府の教育行政の集権化とみるのは正しくありません。確かに連邦政府の政策的な介入は増えているのですが、同時により個人や学校運営者といった小さいレベルに教育の責任を負わせています。

70年代後半から80年代にかけてはより市場メカニズムによって行政サービスを解決しようとするネオリベラルな潮流にも影響を受けてチャータースクールの議論が出てきたという側面もあります。つまり、政府は、民間に学校運営を任せ、個人に「選択肢」を与えて公立学校同士を「競争」させることで公立学校の質を改善させようとしたということです。

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3. チャータースクールの効果は?

チャータースクールは結果を出せないと閉校になってしまうので、親や地域からのパフォーマンスへの期待は高いです。

一方チャータースクールは多様であるので、州、生徒のタイプ、学校のタイプ、期間によっても結果は異なり、チャータースクールをひとくくりにして公立学校と比較するのが難しいです。

チャータースクールと公立学校を単純に比較したときには、チャータースクール・公立学校によって生徒の平均的に差があると言えるエビデンスはほとんどありません。2010-11年のデータを使って27州のチャータースクールを調べたスタンフォード大学のCREDOの研究によると、生徒の読解力には弱いプラスの効果を、算数の結果には効果がなかったという結果が出ています。

一方で、ニューヨーク市、ボストン、ロサンゼルスなど大都市の都市部で行った研究ではチャータースクールは生徒の学力にプラスの影響を与えるという研究結果が多いようです。

これは都市に住む貧困層のマイノリティー(黒人・ヒスパニック)には効果があると言えるのかもしれません。

公立学校のパフォーマンスをテストの結果だけで評価するのには無理がありますが、テストの結果以外でチャータースクールの効果を研究している論文は少ないのが現状です。

 

4. チャータースクールは公平な教育機会を提供しているのか?

チャータースクールは民間の運営とはいえ、公立学校です。

アファーマティブアクションの観点からマイノリティーの生徒を多く入学するような入学基準がある場合もありますが、基本的にチャータースクールへの入学は無差別・無償です。人気のある学校はくじで入学者を決めています。

チャータースクールは公立学校の良い生徒を取り込んでいる(Cream skimming)ため、チャータースクールには成績の良い子や学校の平均点に影響を与えない生徒を取り込んでいると考えることもできます。

一方でチャータースクールに転校した生徒が公立学校にいる児童よりも成績が良い児童であるとは単純には言えないようです

一方で親側に視点を移すと、親の持つ能力(子どもの学校選択に割く時間を持ち、学校情報を得るネットワークを持ち合わせているか、学校情報を読み取る言語能力を持っているか、学校までの通学への手段はあるのか)によって、学校が差別をしていなくても本当は選択したい学校であっても選択できていない可能性もあります。

 

障害児に関しては畠山の記事でチャータースクールは障害児の受け入れを拒否している傾向があると説明されていました。

確かにチャータースクールの方が公立学校に比べて障害児の割合が少ないのですが、これは、学校側の受け入れ拒否によるものなのか、親の学校選択の結果によるものなのか、が詳しく分かっていません。

 

5. まとめ

チャータースクールは到達目標が満たされないと、廃校になってしまいますが、多くの場合、テストの結果が上がったかどうかで説明責任は果たす必要があります。

テストの結果をあげるためには、教科学習(算数・言語・科学)の時間が大事です。

しかし本来公立学校はテストの結果だけでなく、多様性への理解や協調性、市民性など学力以外のスキルも伸ばす必要があります。

これはチャータースクールだけの問題だけではないのですが、チャータースクールを取り巻くテストの結果による説明責任(test-based accountability)が進んでいくことは公教育にとって良いことなのでしょうか。

 

また、ちゃんとした研究結果は出ていないのですが、テストの結果を求める余り、特定の児童を取り込み排除することになってしまうかもしれません。

チャータースクールは民間のノウハウを生かし、児童獲得のためのマーケティングや広告は革新的である場合があると言われています。仮にイノベーティブな広告などによって、特定の児童を取り込んだり(cream skimming)、ある特定の児童(例:障害児)をテストの結果に影響を与えるから、受け入れないようにしているのであればそれは普遍的な教育機会を提供する公立学校の原則と相いれないのかもしれません。

既存の研究では親の学校選択の要因が明らかにされていませんが、もし親がチャータースクールの教育内容に賛同したとしても、通学手段がなかったり、障害児を受け入れる施設が整っていない場合は、消去法として公立学校を選んでいる可能性も否定できません。

教育の結果が多義にわたるという点と、公平な教育機会を提供する役割があるという点が、公教育の説明責任の果たし方を考える点で重要な点であると思います。

 

山田

 

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