サルタックの教育ブログ

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日英比較から考える、先生への期待 ~日本の先生が忙しいのは?

こんにちは!小学生の親からみたイギリスの学校体験記です。

イギリスの小学校も7月下旬から夏休みに入って、「夏休みはどうするの?どこかに行くの?」といった会話がよく聞かれました。

ヨーロッパ内は他国との距離が近いのに加え、そもそも祖父母など家族が海外にいる場合も多く、休暇中に海外に旅行するケースが少なくないようです。ただし、休暇中は旅行関連の費用が高騰することから、学期中に子供に学校を休ませて旅行することの是非が議論となっています。

そこで今回は、イギリスの小学校の出席管理状況に関するエピソードを紹介しつつ、日英の違いを見ることで、日本の教員の忙しさについて考えたいと思います。

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お休みに関するエピソード ~先生は?

イギリスでは、7月に学年度が終わって、9月から始まる新学期までの夏休みに入りました。学年末を前に子供たちに渡されたのは、成績表(一年間の学業成果や態度に対する先生からの評価・コメントが記載された紙)に加えて、一年間の出席状況を記した一覧表でした。

イギリスでは、学期中の休暇は、子供の成績にマイナスの影響があるとして、原則禁止されています。学校の許可なく休んだ場合、罰金等の法的措置がとられる可能性があります。

我が家の子どもたちが通う公立学校(コミュニティースクール。イングランドの学校の種類についてはこちらの記事を参照)では、学校全体の出席率を常にチェックしていて、学校からのニュースレターでも私的な理由で休まないようにと何度も注意喚起されています。

出欠に厳しい・・と思っていたら、先生方の休暇はとってもオープンでした。

この学校には英語で授業についていくのが難しい子供たちのための特別サポートクラスがあり、娘も学校に通い始めて以降、週に数時間、他のクラスメイトとは別れてそこで学んでいたのですが、先生が休暇中のため、1か月間お休みになっていました。また、娘の担任の先生は週4日勤務なので、週に1日は別の先生が担任してくれていましたが、この先生も2週間ほど旅行でお休みしていました。(流石にこの場合は代理の先生が来てくれましたが、)子どもたちはこの先生が海外旅行のためにお休みすることを知っていて、先生も旅先に行ったことがある児童とそこでの様子について楽し気におしゃべりしている様子も見られました。

2週間、1か月といった休暇の長さ自体、日本では珍しいと思いますが、特に教員の場合は、「自分が担当する子供が学校に通っている間に自分が休暇をとって旅行に行くのは…」と躊躇われることが多いと思います。イギリスでも、教員の場合は有給休暇は学校の休暇期間(つまり、年間合計約13週の休暇中は先生もお休み)、職員の場合も基本的には学期中は休暇をとらないようにとの方針がありますが、実際には各学校の裁量が大きいようです。

 

イギリスの小学校における「教職」とは

この背景は、イギリスでは教員の役割分担がはっきりしていることが関係しているように思います。前回の記事にも書いた通り、児童の出欠管理は教員の仕事ではないため、担任の先生に欠席の連絡をしようとすると、「オフィス(事務職員)に伝えて」とスルーパスをされます。このように先生にとっては子供の欠席について管理的な態度をとる必要がないため、子どもたちと自分の休暇の話がしやすい(子どもには学校を休んじゃダメと言っているのに、自分は休んでいるのはどうして!と追及されにくい)のかもしれません。加えて、そもそも、教職も職業の一つとして業務範囲/責任範囲がきっちりしているため、休暇を取る権利を行使することに違和感がありません。この点については、教職に限った話ではなく、社会全体としての働くことに関する権利/義務の感覚と言えそうです。

また、前回の記事で見た通り、イギリスの公立小学校においては教職のうちティーチング・アシスタントが教員とほぼ同じ数という割合ですが、ティーチング・アシスタントになるには、特別の資格が必ずしも必要というわけではなく、必須要件は犯罪歴チェックをクリアしていることです。この犯罪歴チェックのプロセスは、イギリスにおいては社会的弱者(子どもや高齢者等)と関わる仕事に就く場合やボランティアを行う際には必ず求められる手続きです。ティーチング・アシスタントから研修を受けて教員になる道もある他、教員もフルタイムではなくパートタイムで働く人も多いため(教育省の調査によると、2016年のイングランド公立小学校・保育園の教員の約3割はパートタイム勤務)、教職の採用は柔軟です。このように就職機会も多く、教職に就くことへの敷居が高くないことが分かります。

すなわち、日本と比べて「先生なんだから」という期待/プレッシャーが小さいようです。

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日本の先生はどうして忙しいのか

では、日本はどうでしょうか。

このイギリスの状況との比較を通して、日本の先生が忙しい理由の一端が浮かび上がってきます。

 

 (1) 職務範囲の広さ

授業だけではなく、出席管理や給食時・掃除の時間の対応、集金や学校行事の準備、支援が必要な児童・家庭への対応等々。日本の小学校の先生はこれらの職務を通して、子どもの学力だけでなく、生活態度、成長過程について把握・サポートすることが期待されているといえます。これを担任クラスの全ての子供たちに対して行うのはかなりのプレッシャーを伴うことが想像できます。これに対して、同じ学年の教員同士、または経験ある教員からのサポートやアドバイスで乗り切っていけるというのは、日本の学校教育を支える教員の質の高さとして評価される点ではないでしょうか。ただし、これは教員の多忙な状況と背中合わせといえます。

 

(2) ロールモデルとしての期待

日本では、先生に対して、子どもたちにとってのロールモデルとなることへの期待もあるように思います。個人的にこの点を改めて認識したのは、学年度初めにあった担任の先生からのカリキュラム等の説明会で、先生が前の机に座り椅子に足を乗せて話していたのを目の当たりにした時です。特にイギリスでは学校内も土足なので気になってしまいました。これは先生がざっくばらんな態度で話してくれていたことを示しているわけですが、むしろ先生には規律的な側面でも指導してもらうこと(例えば、「誰かが座る場所を靴で汚してはいけない」等々)を期待していたため、違和感があったのです。

折しも、娘が読んでいた日本の小学校1・2年生の道徳の教科書には、公園のベンチに土足で上がって汚してしまうと他の人に迷惑をかけることになる、という主旨のお話が書かれていました。このように、日本の学校ではしつけや規律的な点での指導も期待されているということは、アンケート調査からも伺えます。横浜市の2011年の教育意識調査では、小学生の保護者が教員の指導に望むこととして、「授業力や教科などの専門知識」よりも「社会人としての一般常識」が上回っていました。また、学校教育に対する保護者の意識調査には、学校に対する満足度について尋ねる質問項目で、評価対象となる学校の取り組み事項として、学習指導や学習評価等とともに、「道徳や思いやりの心を教えること」「社会のマナーやルールを教えること」が挙げられています。つまり、学校が取り組むべきこととして、道徳教育や社会規範/マナーの教授が認識されているのです。ここから、先生は道徳的な面/マナー面でも子供たちの模範、ロールモデルとなることが期待されていることが分かります。

 

(3) 子供第一という献身への期待

文部科学省の資料に「教員にいつの時代にも求められる資質能力」として、専門的知識と並んで「使命感」や「教育的愛情」が挙げられていることからも、教職者は子どもを第一に考えることがあるべき姿として期待されていると感じます。例えば、日本では台風等の悪天候で学校が休校になる場合は、こどもの安全を最優先にしての判断であり、休校の場合も、万が一子供が登校した場合や保護者からの問い合わせの連絡に対応する教員(多くの場合は管理者)が、学校にいることが想定されます。このような、悪天候でも交通手段を駆使して、或いは「気合で」通勤するという習慣が、社会全体にはあると感じます。

一方で、イギリスでは、去年の冬は例年になく雪が降り、休校になることがありました。この時連絡された休校の理由は、「雪の影響で、学校に来るのが困難な教職員がいるため」でした。確かに、子どもたちは基本的に学校の近くに住んでいて、保護者が登下校の送り迎えをするため、通学時の安全は学校の所管範囲ではありません。それでも、たとえ子供が学校に通える状況だったとしても、相対的に遠くに住んでいる先生が通常以上の努力をしてまで登校する必要がない、というのは印象的であり、個人的には公平な気がしました。

日本の場合、教職は特別な職業として期待されていますが、更に、社会における顧客を最優先する姿勢、自分の生活を顧みずに顧客のために働くことを良しとするような労働観が、学校にも浸透し、子どものために尽力する先生への期待が過大になっている側面もあるのかもしれません。

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おわりに

以上より、日本の先生の多忙な状況は、教職の特殊性(業務範囲の広さ、道徳的模範としての期待等)に加えて、社会全体としての個人ではなく集団を優先する文化(これは夏目漱石が「自己本位」と表現して切り取った西欧文化と対照的といえます)、それに端を発する柔軟性が低く休暇も取りにくい労働環境が拍車をかけて生じているように感じます。そのため、この問題を解決するためには学校の中、教員に注目するだけでなく、社会全体としての働き方に対する取り組みが必要だと思われます。例えば、冒頭の話に戻ると、休暇をとることは当然の権利であり、適切に休暇をとることによって就業期間中の業務効率も向上する、先生の場合はむしろ、休暇の経験を共有することで子どもたちは他国の情報を身近に理解する機会となる側面もあると、積極的に評価できるかもしれません。

 

子供の成長を全体的に把握し、規律的・しつけ的な要素も担ってくれる日本の教員は、親としては有難い一方で、職務範囲に拘らず子供のために尽力すべきというような社会からの期待が過度となり、教員の多忙化を促進していると考えられます。

サルタックも目指す質の高い教育を実現する上で、教員は中心的な役割を果たしているため、教員が適切な環境で働けるのは教育の質という点で重要です。先生への期待と業務範囲のバランスをとるうえで、このイギリスのどこかリラックスした先生の在り方の例が、参考になるのではないかと思います。

 

荒木真衣

 

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