実は先週まで日本に一時帰国していまして、地元大阪で公設民営学校の開校準備が始まっていると聞きました。
修士のときの研究テーマがチリのバウチャー制度や教育の民営化だったこともあり、興味を持ち調べてみました。
諸外国ではどうなのか?公設民営学校の是非は?という議論はまた次の機会にすることにして、今回は大阪市で誕生予定の公設民営学校「大阪市立水都国際中学・高校」についてまとめてみたいと思います。
公設民営学校とは何か?
公設民営学校とは市町村が設置し、民間団体が運営する公立学校のことです。公立学校は市町村が設置し、運営も市町村の教育委員会がそれぞれ行っています。公設民営学校は運営の部分を行政ではなく、民間団体に委託します。一方、運営を民間団体に委託しても公立学校であることには変わりはありません。大阪市は2019年4月に大阪市住之江区に「水都国際中学・高校」を開校予定です。委託法人は「学校法人大阪YMCA」に委託することが決まっています。
日本の中高一貫校では初めての公設民営学校です。
なぜ公設民営学校は可能になったのか?
国家戦略特別区域法の学校教育法の特例を適用できたからです。
国家戦略特別区域法とは、日本の産業の国際競争力を高め国際的なビジネス環境を作ることを目的に、特区を形成し、大胆な規制緩和を実施することを目的とした法律です。
学校教育法の特例について記した第12条の3では、日本の産業の国際競争力を高め、国際的なビジネス環境を作るための人づくりの重要性が記されています。国際ビジネスを支える人材育成のために、中学校・高校・中高一貫校で、国際理解教育と外国語教育を重点的に行います。
大阪府を含む関西圏は特区指定されています。
大阪府・市の成長戦略としても大阪の経済成長を牽引する、グローバル人材の育成が掲げられています。
特色
英語教育に力を入れる予定です。
英語が母語の外国人教員の指導の下、国語以外の様々な教科で英語ベースの授業を行ないます。
また座学中心の授業ではなく、生徒が自ら課題を発見し、解決する課題探求型の授業にも力を入れます。
この一環として国際バカロレア教育(IB)が導入予定です。
国際バカロレア教育とは
国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。
国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)は、1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成し、生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置。(1. 国際バカロレアとは:文部科学省)
IBではディスカッションやグループワークにより課題解決を図ることが重視されます。
国際的に通用する資格なので、海外の大学への進学にも繋がりやすいというメリットがあり、また日本の大学もIBを活用した入試を取り入れつつあります。
近年ではIBの授業履修の一部を学習指導要領下の科目として代えることも可能となっています。
従来の公立学校と何が同じで何が違うのか?
根本的に異なるのは、運営の主体が市町村の教育委員会ではなく、民間団体という点です。
一方でくくりとしては公立学校なので、中学校の授業料は他の公立学校同様無償、高校の授業料も他の公立学校と同じです。
公立学校同様必要なお金は、国・都道府県・市町村が負担し、市の教育委員会が公設民営学校を監督する権限を持っています。
特色のある教育ができるとはいえ、国の教育指針である学習指導要領に従い、教育委員会の採択した検定教科書を使用し、教員も基本的には教員免許を取得しないといけません。教育委員会に対しての種々の報告義務もあります。
一方教員の人事管理制度に関しては、通常の公立学校よりも規制が緩くなっています。
通常の公立学校の教員は公務員として地方自治体に雇用されますが、水都国際中学・高校では運営元の大阪YMCAが雇用を行います。
外国人教員を増加させたいという意向から、日本の教員免許を取得した外国人教員も多く雇用される見込みです。
産業やビジネス現場の第一線で活躍中の外国人による指導も考えられています。
外国人の通常の教員免許の取得は難しいことから、教科に関する専門分野に関する勤務経験を持ち、第三者評価による資質の確認を行い、教育委員会による必要な研修を実施した上で特別免許状を授与することも可能なようです。
教員の給与も公務員のものに縛られずに柔軟に設定することができるようです。
私立学校とは何が違うの?
私立学校は設置も運営も民間の学校法人が担いますが、公設民営学校は設置は市町村、運営は民間団体です。私立学校は私学助成を受けられるものの、自ら収入を確保し、学校を経営していかなくてはいけません。
一方で公設民営学校は公立学校であることから、その心配はなく、公金を使って運営することができます。
なぜ公設民営学校にする必要があるのか?
公立の特色を残したまま、民の力を借りることができると言われています。
大阪市によると、民間団体の学校運営のノウハウ、英語教育、海外ネットワークを活用し、一般の公立学校よりもより国際的な教育・留学などのプログラムを実施し、民間の知見を生かした学校運営ができるとされています。
IBなどの特色のある教育プログラムの多くは私立学校で実施され始めていますが、授業料が高額です。
大阪市の説明では、保護者が家庭の経済力によらずに特色のある教育プログラムを選択するには公の資金的サポートがある公立である必要があるとされています。
民間が運営できなくなったらどうなるの?
仮に民間が学校を運営できなくなった場合でも、大阪市が教員を確保し、教育活動を継続するようです。
最後に
国家戦略特区法が閣議決定されたときに、当時の下村文科大臣は、
と発言しています。
次のブログでは、アメリカのチャータースクールの事例をご紹介したいと思います。
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